PANDEMの新作という事で注目している方も多いと思う。
補足させてもらうとしたら、今、20年近く前のコンパクトFRをラインナップに入れてくれたTRA京都にお礼を言いたい気持ちだ。
13シルビアオーナーはもちろんの事、改めて13を好きになった方もいるだろう。
MOONTECH
以前紹介したPANDEM PORSCHEのオーナーだった田口氏が独立しMOONTECHというショップを立ち上げた。
ホームベースが出来た事により、彼の様々な活動がどのように展開していくのか気になる所。手始めにショップでの処女作というべきPANDEM13シルビアを取材させてもらう事にした。
田口氏に限らず、自主的な活動が実を結ぶ瞬間を見れるのはとても嬉しい。
PANDEM
まずはエアロについて概要を説明してもらった。
「新作発表のPANDEM Ver3フルボディキットになります。で、フロントバンパー、フロントリップ、前後オーバーフェンダー、サイドステップ、リアバンパー、ダックテール、GTウイングの構成になります。13シルビア用です。あと、マフラーも新作のPANDEMエキゾーストシステムですね」
初見では内巻きのバンパーに、PANDEMならではのシルエット。以前に取材させてもらったケイマンと同じPANDEMだがキャラクターはガラリと違って見える。
ただ、ドッシリとした低重心を基調とするブリスタースタイルは共通しているようだ。
「このVer3に関してはPANDEMなので、いわゆるブリスターフェンダーですね。正面からフェンダーを見た時に、オーバーフェンダーみたいな丸い曲線ではなくて、ボックス形状というか比較的真っ直ぐ横に広がっているのが分かると思います。あと、フェンダーピースがバンパーに被らないタイプ。ようはバンパー側がそもそもワイド」
フェンダーピース
少し話はそれるが、フェンダリストでも注目されるフェンダーの収め方。“フェンダーの裾”と表現される事も多いが、フェンダーのカスタムにおいては非常に重要視される。
特にバンパーに向けてのラインをこだわるフェンダリストも多いが、逆にバンパーと合わせずにバッサリ切ってしまうケースもある。
これに関する議論をすると長くなるので割愛するが、フェンダーの裾はクルマのシルエットを決める上で重要という事だ。
ケイマンはバンパーの上にフェンダーピースと呼ばれるバンパーの裾を貼り付けている構造になっている。
対して、この13シルビアはバンパーがフェンダーの出幅に合わせてワイド化されており、フェンダーはバンパーの所で分割されている。
見比べると非常に面白い。
「ポルシェとかフェンダーピースってあったじゃないですか?それがないタイプで、バンパーの裾が広がってるんです。リアもバンパーが広がっている。だからフルキット組まないと成立しないボディラインなんですね」
17インチの秘話
統計を取った訳ではないが、シルビア系は18インチへのインチアップが多い印象。しかしこの13シルビアは17インチ。
「シルビアのPANDEMって、実は17インチでこのタイヤサイズでボディキットが設計されているんです。ロケットバニーもそうなんですけど、標準というか参考になるホイールやタイヤサイズがあるんですよ」
こうした秘話も正規代理店ならではだ。ロケバニやパンデムは、元々完成図というのがあるようだ。
「ホイールはOZフッツーラのステップリムですね。17インチのリバレルです。リバレルしたので正確なオフセットは分からないです。タイヤはTOYOTIRESのR888Rでサイズは[F]235/40-17 [R]255/40-17」
フェンダー
フェンダーはアーチが高く、ストロークした時の干渉を避けるような形状。これを見ればローフォルムを前提としてツラを出す事も想定されているのがよく分かる。
出幅はフロント80mm、リア100mmといった所だろうか?正面から見るとかなりフェンダーが寝ており、PANDEMシリーズの中でも13シルビアの薄いシルエットをディフォルメするような形状になっている。
また、リアのダックテールにDTMを連想させるGTウイングはどちらも主張しすぎないデザインだが組み合わせで中毒性が高くなっている。
制作上のこだわり
「ツラもそうなんですけど、キャンディーレッドのハーフツートン?ですかね、色かな。相当大変ですよ、キャンディでツートンなんで。ベースカラーがハイスパークシルバーで、下側がSHOWUPのエンビーっていう新作のキャンディーカラーなんですけど、それのカーディナルレッドです」
「あとは、この車高とツラで快適に街乗りもできるような装備としてエアカップシステム。オーディオもアンプ組んでいて、エアコンも付いています」
本車両はS13シルビアの前期がベースとなっているが、外装は後期移植がされている。
室内をチェックするとBRIDEのジータⅢが二脚、PANDEMレーシングハーネス、LIKEWISEのスズカエクステンションにデイトナシフトノブ、RE:Lowのサイドブレーキレバー、GReddyパフォーマンスUSAステアリング、7点ロールケージ。
フェイクカスタム、オーディオレス
室内はドンガラで、ダッシュボードやドアの内張りはフロッキー塗装がされていて、ラリーカーのような仕様だ。
残るパーツはメーターやダッシュのパネルだが、それらはピアノブラックで塗装されている。ピアノブラックをセレクトしたのは、ユーロ車も乗ってきた名残だろうか。
気になったのは、オーディオのデッキが見当たらないのに音楽がかかっていた事。
どうやら、2DINのデッキスペースに500wのアルパインのアンプを仕込み、蓋をしてオーディオレス風にしており、メインユニットとしてiphoneを使っている。
これは、ありそうでなかった手法ではないだろうか?思わず真似したくなりそうだ。
「普通だったらデッキがあって、スピーカーじゃないですか?最近だとiphone、デッキ、スピーカー。そこにアンプ入れたければ、iphone、デッキ、アンプ、スピーカー」
「オーディオレス風にしたければiphoneからアンプに直でUSB入力。そうすれば、デッキが必要なくなるのでスペースも開ける事ができるし、普通にデッキからスピーカーよりもアンプを通してるので出力も稼げるし音質もいい」
見た目はドンガラでレーシーな雰囲気だが、エアコンもあればオーディオも聞ける。快適さも損なわない仕様というコンセプト通りだ。
エアカップ
さて、このシルビアにはMOONTECHがオススメするエアカップが装着されている。
ロベルタと同様、エアーの力で車高を上下させる事ができるカップだが、どのような仕組みなのか気になったので足回りを見せてもらった。
上からエアカップ、スプリング、ヘルパースプリングとなっており、カップ内のシリンダーが上下する事で車高を調整する事ができる。
車高の低い車両は、フロントだけでも組むと段差に対する不安もかなり軽減されると思う。オランダ製で価格もリーズナブルと聞いたが車種によって違いはあるのだろうか?
「キットは同じなんですよ、ただ必要な部品がクルマによって違うし、車高調によって違うんですよ。キットの価格は15万プラス消費税ですね。工賃がフロントだけだったら10万、前後で15万程度です。そこにスプリング等、必要分の料金って感じです」
必要な部品とはスプリング以外にどのような物なのだろうか?
「クルマによってはこのカップが手前にきてしまうんですよ。てなると、オーバーフェンダーのクルマでマイナスオフセットだといいんですけど、純正フェンダーでプラスオフセットがキツイとカップにインナーリムが干渉するんですね」
「あと、この13はアッパーマウントが調整式なので、カップの位置を調整できるんですけど、13のようなストラットの場合はキャンバーもついてしまうので、ブラケット側のキャンバープレートでポジティブキャンバーにしてるんですよ」
ブラケットのキャンバープレートは、4段階の調整が可能。この調整によりナックルを起こしたり寝かしたりする事ができる。
この機能でカップの位置を調整した際に寝てしまうキャンバーを起こしているという訳だ。
スプリングとヘルパースプリングの関係や、カップの位置、ホイールとの兼ね合い、はたまた足回りの構造まで関係してくるので、取り付けとツラ出しはショップの知識やスキルが問われる作業である。
ガチャガチャの手法
ボディ全体に渡るステッカー、多彩な色使い。
これらの手法だけを見ると、昨今SNS等で日常的に見かける、ステッカーチューン、何々系と揶揄されるカスタム車両を連想してしまう。
田口氏のこれまでのクリーンなカスタムメイク。足し算、引き算で言えば、引き算を追求していたように思っていだけに意外ではあるが、彼がカスタムトレンドに疎いとは思えない。そこに何か意図はあるのだろうか?
「僕、思うんですけど、そういう風に見られるクルマってどこかでカッコいいクルマを見て、それを取り入れてるんだろうなって思うんです」
「取り入れるのは全然悪い事じゃない。でも、そうなっちゃうのは抑える所を抑えてないからだと思うんですよね」
「カッコいいって言われるクルマは抑えてる所は抑えているからカッコいいんであって、抑える所をやらずに先走ってやっちゃうと、トータルバランスが取れないんですよね」
提唱
田口氏いわく、車両を制作する上でやる事はコンセプトを立て、エアロやボディに対してきっちりと足元を造りツラを出す。
その上でカラーリング、ステッカーのデザインなど一つ一つを考えてトータルバランスを慎重に取っていく。
カスタムはこうした一連の作業があってはじめて成立するのであって、思いつきで一部分の色を変えたり、所構わずステッカーを貼ったり、いきなり派手な色のホイールを入れてもトータルで見る事を忘れている為、バランスが取れない。
では、今期の作品とも言えるこの13シルビアは、どうして“ガチャガチャ”と呼ばれる足し算の手法を取り入れたのだろうか?
「あえてですね、そういうガチャガチャな手法でもしっかりと計算して造ればカッコいいって言われるクルマは造れるんだよって」
「それ以外にもキャンバーはつけない、タイヤは立てる、引っ張らない。ショルダーフラッシュ、だけどシャコタン。っていうのを新しいジャンルとして造っていきたいんですよね」
証明
実はこの車両を制作段階から見ていたのだが、正直な感想としてはステッカーを貼り始めた頃に「ギリギリの所をつくな、大丈夫なのだろうか」と思っていた。
しかし、完成して世に出ると多くの人から称賛の声が上がった。
90年代のレースシーンからストリートシーンを思い起こせば、当時の箱車はどれもカッコよく見えるし、未だに恋い焦がれている。
13シルビアにおいては空気感が違うだけで、90年代の恋い焦がれたあのクルマ達の好きな部分がたくさん詰まっている。
そして、そこには今でいう“ガチャガチャな手法”も盛り込まれていた訳だ。
そう考えれば、世情に影響を受けてアレルギー反応を起こしていたのは筆者であって、MOONTECHは実に冷静だったとも言えるのではないだろうか?
新しい流れが出来ると人は否定的になりがちだが、利口であれば受け入れて観察する。とかく昨今のSNSでは、その構図が非常に分かりやすい。
USなんかだと新しい流れを楽しみ、そこに乗っかる人も多い。そうしてストリートカルチャーが発展していく。
田口氏は色々と壁を壊して突き進んでいるので、見ていても面白い人物だ。日本でも彼のように若き匠達がどんどん出てきてくれる事を願う。
「たぶんストリートシック読む人だったら皆さん知ってると思うんですけど、ケイマンから始まりFD、13シルビアで平成初期のクルマでも戦える?っていうのを証明したかった?ケイマンからだと車格が下がる一方じゃないですか?車格的には。だけど車格が全てじゃない、色んな魅せ方があるよって。戦う方法は色々だよって」