90年代初期といえば、FRPのエアロキットが出始める中、インチアップしたホイールを入れる為には、叩き出しや鉄板フェンダーという手法が多かったように思う。
もっとも、当時はFRPのエアロといってもバンパー、サイドステップ、ウイングのモディファイが主流で、今のようにフェンダーに手を入れるというのは、絶対数としては少なかったかもしれない。
どちらかというと、ワークスマシンなどのレーシングカーや街道レーサー達が、その手法を発展させていた印象だ。
しかし、日本の旧車スタイルや、海外でのJDMカルチャーがミックスされた現代において、フェンダーのモディファイは珍しくない。また、走りにおいてもタイムを叩き出す為、大口径のホイールをインストールするのは定石になってきている。
J,beat
埼玉県加須市にあるJ,beatは、ボディワークを得意とするカスタムショップで、昨年のスタンスネーションでアワードを獲得したワイドボディのMR2を手がけたショップ。
オーナーの坂本さんは、腰が低くどちらかというと、友達のような接し方をしてくれるので、気軽に相談できる人物だ。
「元々がドリフトやってたんですね。で、最初はドリフトの仲間のクルマをやってて、そこからこういうシャコタンとかスタンス系が増えてきて」
本人も板金の仕事をしながらドリフトなどのクルマ遊びをしていた根っからのクルマ好きだ。
板金は仕事でやっていたものの、カスタムについては好きで始めたらしい。
鉄板フェンダーの良さ
鉄板フェンダーの強みといえば、強度とうねりのない光沢、ワンオフだけに入れたいタイヤ、ホイールをセットでき、自分好みの形を表現できる点だろう。
FRP製品は、良いとされている製品でもロットによっては、当たり外れがあり、粗悪品になると、塗装痩せ、FRP特有のうねり、変形、経年劣化によるクラックが出る場合がある。
勿論、両者とも優れている点とマイナス面があり、甲乙付けがたい。
長らくはコスト面やその手軽さで、FRP製品が重宝されてきたが、ここに来て一部では昔ながらの叩き出しや鉄板フェンダーが見直されているようだ。
正確なデータはないものの、少なくともフェンダリストでは、そうした車両が多く見られ、日本におけるカスタムカーのトレンドをユーザーから教えてもらった。
動向
J,beatはボディーワークを得意としているようだが、どういった作業が多いのだろうか?
「主にオーバーフェンダーとオールペン。FRP買ってきて持ち込みという場合もありますけど、鉄板溶接が多いですね。うちのお客さんは、比較的ワンオフが多いです。はい。叩きとか、四角い鉄板から切り抜いて溶接して、昔ながらの鉄板フェンダーにしたり。勿論、FRPでやりたいとか、FRPフェンダー買ってきてやりたいって方もいますよ」
例えば180sxは、ショップに来た時に叩きっぱなしの状態だった為、アーチ上げした後に鉄板フェンダー(鉄板溶接)に仕上げている。また、クラウンも同じく、アーチ上げをした後に、フェンダーの耳を造り、給油口をスムージングしている。
インナーからの叩き起こしも要望があればやっているが、アーチ上げ後、鉄板溶接の方がコスト面で優れているらしい。
どこまでが叩き出し?
単純な疑問として、叩き出しと鉄板溶接の境界線は、どこなのだろうか?叩き出しだけで全てカバーできないのだろうか?
「このホイールを入れたいから、これに合わせてフェンダーを造ってほしいという要望で、それを見た時に叩きでいけるな、いけないなっていうのは、フェンダーの広げ具合で変わってきちゃうんで、そこの判断はお客さんとも相談しますけど、叩きで難しい場合は鉄板の貼り付けになりますね」
「それは、経験というか、叩いていくと鉄板って伸びる限界があるので。やっぱり叩いて限界で、鉄板溶接にした経験があるので、だいたいは見れば分かりますね」
20ソアラで説明
作業場にある20ソアラが、ちょうどフェンダー制作に入るとの事で、ソアラを参考に説明してもらった。
「フロントはギリギリですかね。ホイールの出幅に対して、この距離が叩き出しの限界ですね。完全叩きというか少し切ったりはします」
「リアに関しては、アーチ上げして溶接ですね。お客さんの要望が、ここのプレスライン(フェンダーの耳)を残しながら、アーチ部分をワイドにしたいとの事なので。いずれにせよ、これはクォーターなので、インナーとアウターが挟んじゃってるから切らないといけないですね」
素人の感想としては、フロントはこれだけの間隔があるのに叩きでいけるのかと興味津々だった。
「タイヤの引っ張り具合とか、色んな兼ね合いもあるんですけど。引っ張らないで、ギリギリを攻めたいっていう要望もあるので、そのへんは要相談ですね」
理想のフェンダーを造るコツ
多くのフェンダー制作を行ってきた坂本さんでも、流石にお客さんの好みまで全て把握できる訳ではない。それは、対話である程度、解消する事はできるだろうが、100%とはいかないだろう。
自分の頭の中にあるイメージを投写できればよいが、そうもいかない。
では、出来る限り理想に近づける為に、コツがあれば教えてもらいたいのだが。
「履きたいホイールを持ってきてもらって、タイヤサイズとキャンバーも決めてもらってから、それに合わせてフェンダーを造って欲しいという要望だと、説明もしやすいし、一番手っ取り早いですよね。その辺りが決まってなくて、ギリギリを攻めたいというのは、ボンヤリしてて、なかなか難しいですね」
タイヤサイズやキャンバーについては、坂本さんからレクチャーを受けてから決定してもよいが、最低限、ホイールや理想のスタイルなど写真で見せて、実例を伝えるとスムーズだろう。
決して「攻めてて干渉しないカッコいいフェンダーにして」など無茶な依頼はしないほうが良いだろう。
フェンダーは奥が深いので、こちらから具体的にやりたい事を伝えて準備するという作業が、仕上がりも自分の理想への近道かと思う。
工程
鉄板溶接において、その工程はどのような作業になるのだろうか?
20ソアラの依頼は、ナチュラルで純正風という事でアーチの耳も残したままワイド化したいといった依頼だ。
長くしなる棒を持ちながら、説明をしてくれた。
「耳は鉄板の段階で造ります。けっこう、ワイド具合が分かるのでこれでアーチ出して、これを元に造っていきます。だいたい鉄板を何枚かに分割して、アールを付けながら地道に造っていきます。もちろんアライメントとって、足の状態を完全にしてからっていうのが大前提なんですけど。攻める方だとタイヤメーカー変わると駄目になっちゃったりするんで、その辺はシビアにやってるつもりですね」
こうして昔ながらの地道な製作工程で仕上げられるそうだが、仕上がりは現代風にスマートな仕上がりなようだ。
後日、J,beatにお邪魔した際にソアラを見ると、ちょうど鉄板溶接が終わった所で、説明通りにナチュラルなフェンダーが形になっていた。
出幅は純正と比べると一目瞭然だが、塗装まで終わると気が付かないようなラインを描いたナチュラルなフェンダーになりそうだ。
ちなみに、もう一台の20ソアラのフロントは、写真では分かりにくいが、かなり攻めているそうで、これがこのタイヤサイズにおけるギリギリのラインだそうだ。
タイヤとフェンダーの関係は奥が深い。空間造りに通じる物がある。
特殊ペイントからワイヤータックまで
J,beatは板金塗装、車検整備まで行うがカスタムメインの板金塗装が多く、作業場にはそうした作業を想定した機材が置かれている。
オールペンはキャンディーからフレークまで扱っており、悩むボディカラーに関しても、車種名や年式が分かればカラーナンバーを調べて調合してくれる。
写真は、カラーナンバーを調べて配合データを出している所で、バーコードを読み取って、この機材で配合の割合いなどを出している。
塗装の際に使うガンは、坂本さんが好みで集めた物で、それぞれに特徴があり、用途に応じて使い分けている。
「例えば、大容量で塗布面が広く、ミストが細かいので極端に言うとゴミが付かなければ、磨きがいらない物とかですね」
「オールペンもこだわりがある人がいて、とにかくテカテカにしてほしいという要望に対しては、クリアの工程を増やして、クリアの艶を多く出したりもします」
フレークに関しても、要望に応じて色や量を調整して塗装するそうだ。
集まった車両
この日は、坂本さんが手がけた思い入れのある車両のオーナー達が集まってくれた。
取材中、180sxのフェンダーを触りながら「車高下げたっぽいですね」と話していて、一台一台の状態を把握しているようだった。きっと綿密な打ち合わせをしたのだろう。
キャンバーとタイヤの引っ張り具合が決まると、こうしたベストマッチが生まれるそうだ。
クラウンに関しても、インナー側に干渉対策にプレートを足したり、一見して純正に見えるが、このスタイルを維持する為の工夫が隠されている。
MR2に関しては、全身ワンオフといった感じで、純正と比べると、もはや別物になっている。しかし、そこに下品さは見られず、エレガントにワイド化されているのは流石だ。
以前にも紹介させてもらった、Splashのチェイサーは、フェンダリストに向けてフェンダー制作に入っているそうだ。
取材というだけで、これだけお客さんが集まってくれるのは、信頼から来る証だろう。
フェンダー制作だけでなく、こうしたユーザー目線のトータルコーディネイトも手がけるJ,beat。
要望があればエンジンルームの塗装や、ワイヤータックなどのハードカスタムにも応じてくれるそうなので、興味がある方は一度足を運んでみると良いだろう。
J,beat(ジェイビート)
〒347-0105 埼玉県加須市騎西790-3
営業時間:ご来店の際は事前にお電話ください。
定休日:月曜日(事前に予約すればお店は開けます)TEL:080-4164-1359
Instagram : J,beat
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