田口氏が造ったショルダーフラッシュなPANDEM PORCHEは記憶に新しいと思うが、以前に紹介した通り現在は新しいマシンのRX-7が完成したらしく、これから各地のイベントで目にする機会もあるだろう。
そんな田口氏が店長を務める、群馬のFIRSTCLASSにお邪魔してきた。
トータルワーク
FIRSTCLASSの外観はパームツリーで彩られ、敷地もゆったりとしており、しばしば撮影にも利用されている。
本記事ではカスタム部門とも言える作業スペースを紹介したいと思うが、こことは別にショウルームもあるそうだ。
「ショウルームは主に車両販売をさせてもらってて、こっちは整備する場所って位置付けなんですけど、最近はカスタムショップみたいなイメージになってますね。カスタムしたい人とかは、直接こっちに来られるんですよ」
場内を見ると国産から輸入車、VIP、Fenderistまでカスタムカーを見る事ができる。
お店としては、どういった内容の作業を得意としているのだろうか?
「だいたいできちゃうんですよね。海外から中古車探してきたりもしますし。あと、日本で数少ないアキュエアーの正規代理店なんですよ。だからもちろんエアサス組んで、ボディキット組んで、塗装して磨きして納車までするんですよね。そういう意味ではトータルな?カスタムショップですかね」
ショウカー制作
ショウカーの制作に長けているように見えるが、たまたまそういった車両が置かれている場合もあるだろう。実際の所、どういった車両の取扱いが多いのだろうか。
「最近はスポーツカーのカスタムが多いですね。あとエアサスが多いですね。めちゃくちゃエアサス車両造ってます。そういう意味では確かにショウカーが多いかもしれませんね」
「車種的には、86、Z、シルビアが多いのかなって感じです。欧州車はAUDI、BMWが多いですね」
エアサス
“生脚かエアーか”そんな議論がずいぶんと繰り返されてきたかと思うが、ここに来てエアサスの普及率が増えてきていると感じる。
それは安全性、機能性などエアサスに対する認識が徐々に広まりつつある事やトップレベルのカスタムオーナーが装着したり、エアサスを取り扱うメーカーの増加や品質の向上に起因するかと思う。
しかし、未だにユーザーにとってはメカニカルなパーツであり未知な部分も多い。そこでエアサス装着の取り付け実績が豊富なショップの生の声を聞いてみたいと思う。
「うちで人気あるのはアキュエアーですね。やっぱりハイトセンサーを付けたいっていう要望があって」
「走行時の管理にもこだわりがあって、プレッシャーセンサーだけの管理だけだと、気温、気圧、湿度によって上げ下げした後に同じエア数値を指してても20mm以上の車高の幅ができてしまうので、そうなった時にアライメント取ってセッティング出してても、タイヤが減るとか外に出て目視で車高を確認しないといけないって問題があったんです」
「でも、アキュエアーはそういう不安を全部解消してくれて。4輪にハイトセンサーが付くんで、環境に左右されないし、例えば後ろに人が乗ったら後ろだけ上げてくれるし、助手席に人が乗ったら助手席だけ車高を上げてくれるんで、常にセッティングを取った状態で乗れる。つまり走行時の安定にも繋がるし、タイヤが長持ちするし、ツラの状態なんかも維持できるんですね」
マネジメントはアキュエアー
アキュエアーは以前にもチェックした事があるのだが、色々ラインナップがあり、素人にはどれを選ぶのが良いのか分からないのが正直な所だ。
「そうですね、人気があるのはアキュエアーの最新のCVTってやつなんですけど、タンクの中にコンプレッサーと電磁弁が入ってるんですよ」
「つまりタンクだけで全部制御できるんですよ。取り付けは大変なんですけどね(笑)ただ、アキュエアーは一つ難点があって、マネジメントだけなんですよ。どういう事かって簡単に言うとショックがないんです。AIRLIFTってショックもあるしマネジメントもあるんですけど、アキュエアーはマネジメントしかないんで、ショックはAIRLIFT、AirRex、D2使ったりしてます」
田口氏の話によるとマネジメントはアキュエアーを使い、ショック(エアバック)はAIRLIFTなどを選ぶ事が多いらしい。ただ、ベストな選択として、例えば日産車に多いリアのマルチリンクをコイルオーバー化し、ストロークをシェルケースで調整できるようワンオフ対応などがおすすめなようだ。
この会話は、カスタムカーでツラを煮詰めた車両を前提としているので、すべてが当てはまる訳ではないだろう。また色々なメーカーの商品があるので各社の特徴と、自身の用途に合わせて選べば良いかと思う。
FIRSTCLASSでは混み具合にもよるが、遅くとも1週間あればエアサスの装着は可能との事。
また、取付実績が多いのでマイナー車両の対応、ワンオフ加工もお任せできるのも嬉しい。
取り付けのこだわり
実績があるショップだからこそ、エアサスを取り付けるにあたって気を付けてる所やこだわりあるだろう。
「フィッティングをできるだけ少なく造ってますね。フィッティングって継ぎ手なんで、継ぎ手が多ければ多くなるほどエア漏れするリスクって増えるんですよ。その継ぎ手をどれだけ少なく付けるかっていうのがこだわっている所ですね。配管のホースが直接エアバックにいけば、それだけエア漏れのリスクは減るんですよね」
取り付ける車両によって車種、状態によって様々なので、そこをやりくりするのがこだわりとも話す。
配管に関しては、基本的に室内を通す事が多いらしい。室内のカーペット下にある純正の配線と同じように通す事で、室外よりも熱対策や経年劣化の軽減に繋がるそうだ。
その話を聞いて、配管がつぶれたり抑えられたりする事はないか少し疑問に思った。
「全然大丈夫ですよ、そもそも純正の配線も通ってますし、うちはDotAってアメリカの規格の硬いホースしか使ってないんですよ。これトラックのエアブレーキに使われてる耐圧ホースなんですね。触ってみてください、めちゃくちゃ硬いでしょ?」
ホースを握ると、握力では握りつぶせないほど硬い。これはメーカーからの指示ではなく、取付実績からくるショップならではのノウハウのようだ。
「エアサスって色々なメーカーさんがあって増えてるんですね。で、お客さん自体も自分の求めるエアサスっていうのが分からなくなってたり、どんな商品があるのとか、何を付けたいのかも分からないっていう状況の方が多くて、一から十まで説明させてもらってますね」
エアサスを検討している方は、田口氏にレクチャーを受けると良いかもしれない。
ポリシー
田口氏は店長を務めながら、プライベートではクルマ造りと各地で開催されるカーショウへの参加、メディアへの露出など様々な活動している。
これらの活動はショップにフィードバックされているのだろうか?
「トレンドにはかなり敏感になってますね。だからアメリカに行ったり、現地のカスタム状況をチェックしたり、色々な人と会ったり。やっぱり周りと同じレベルじゃいけない、越していかないと発信していけないと思うんで、毎年アメリカには足を運んでますね」
田口氏の活動を通してか、噂を聞きつけショップには東北など遠方からのお客さんも訪れるようだ。
例えば、フェンダーをリムに刺したいとなった時に、タイヤの銘柄や引っ張り具合を把握して予想図を伝えてくれるショップは少ないだろう。
ショルダーフラッシュについてもSEMAショーなどではスタンダードなスタイルという。
興味深いのは、お任せというお客さんも少なくないという事。人ありきでお客さんがショップに訪れるというのはカスタム・チューニングシーンで未だに多いと思うが、お任せというのは珍しいのではないだろうか?
こうした依頼の裏側には、こんなクルマ造りのポリシーがあるそうだ。
「ポリシーはですね、自分が乗るつもりでやってるっていうのはありますね。自分だったらこうするなとか、自分だったらここは嫌だから直したいとか、そういう事をお客さんと話して詰めてますね。ある程度お任せ?カッコ良くしてって依頼もけっこう多いんですけど、お客さんのやりたい事とか聞いた上で進めてます。やっぱりお客さんに喜んでもらって、カッコいいクルマを世に出していくって大事で、それがカッコ悪かったら造ったの誰ってなりますよね?」
作業場
作業場は広く、塗装ブースにリフトなど開放的なスペースだ。
シルビアはエアサスの取り付け、エアゼロ時に下げる為、メンバー上げとリジット化、サイクルフェンダー化と大幅なモディファイ中らしい。
エアサスのバックはAIRLIFTを採用しているそうだ。
作業は整備、塗装、事務とそれぞれ担当の人がおり、ショウカーばかりでなく時には事故修理や塗装など、整備本来の仕事もしている。
フェンダリスト
フェンダリストでアワードを獲ったPANDEM PORCHEもそうだが、この2台の30セルシオを雑誌やイベントで見て知っている方も多いのではないだろうか?
初見で車高もフェンダーも相当造り込まれているのが分かる。
FIRSTCLASSはフェンダー制作においても、叩き出しから鉄板溶接、ロケバニなどの社外品の取り付け実績も豊富だ。
このセルシオのフェンダーとダックテールは鉄板溶接で制作されており、給油口の移設も施されている。
シンプルに見えるが「VIPのフェンダーは真円に出来て当たり前」と車高、タイヤの引っ張り具合、フェンダーの形状を追っていくと、かなり緻密な計算がされているのが分かる。
VIPシーンでは鉄板溶接が多く、施工時間とコストはそれなりに掛かるが、仕上がりはやはり美しい。
フェンダー制作と一言で言っても車種や形状によって様々だと思うが、アーチ上げの手法についてこう語る。
「そのクルマによりますね。なんとも言えないですけど、切って鉄板一枚で造る場合もありますし、短冊切りして上げて、足りない部分を鉄板走らせて溶接するって場合もありますし、フェンダーの形状によってバラバラですね」
それはきっと経験やセンスに左右されるのだろう。
例えばこだわりのあるオーナーであれば、インナーまで造ってしまう場合があるかと思うが、そこで予算という悩ましい問題が出ると思う。
「僕もフェンダーにはめちゃくちゃこだわってますよ(笑)パテを入れて純正と同じ形状に戻して、色を入れてくれって人もいますし。オーバーフェンダーにして中は見ないよって人はシーラーフィニッシュでやりますし、そのあたりは臨機応変に対応させてもらってます」
「鉄板も人気ですけど、最近はロケットバニーの依頼が多いですね。かなりの数をやってると思います。けっこうロケットバニーって買い方が分からないって人がいるんですよね。うちだと部品だけも扱ったりしてますし」
ユーザー視点
「SNSが発展した事によって、共通の趣味を持つ人が繋がるきっかけが多くなってるから、車離れがどうとか聞きますけど、個人的にはカスタムする人は増えてるんじゃないかなって思うんですよね」
田口氏はクラフトマンとしても、一カスタムユーザーとしてもストリートでのトレンドに敏感だ。こうした発言もメディアに左右されず、ストリートのリアルな体験あってこそと思う。
ショップにおいては、エアサスのコアな知識や様々なフェンダー制作も行っており国産から欧州車まで対応車種も幅が広い。
アキュエアー、AIRLIFT、AirRex、イデアル。パンデム、ロケバニ、OLD&NEW、TOYOTIRES、ワーク、KW、BCRACING、rotiformなどの取扱いメーカーも多い。JDMコンセプトのGT5の取扱いなど、輸入パーツにも強いのも魅力の一つだろう。
もし、ボディワークや足回りで悩んだ時は、FIRSTCLASSに足を運んでみると良い。