ハンドルを切って曲がると、バキバキ音が大きくなってきた事に以前から気がついていたのですが「デフオイル変えるかな」くらいに言い訳がましく思っていました。
しばらくして、以前の記事で紹介したメンテナンス時に、デフオイルが大量に吹いてる事を発見。
バキバキ音とハンドルに上下の振動が伝わるようになってきたので、これはまずいとNISSAN系に強い翼商会にトラブルシュートをお願いする事に。
自己検診
翼商会も含め、何人かに今回の症状を相談した所、考えられる要因としては、デフのバックラッシュ、ドライブシャフト、メンバーのクラックがよくある原因だそうだ。
そこで自己検診してみた所、メンバーにはクラックなし。ドライブシャフトは横方向には動くが、これはそういう物という事で、問題の回転方向に手で回してみると、ほんの少しだけ遊びがある。ただ、これは許容範囲な気もしてどうにもすっきりしない。
バックラッシュかドラシャか
翼商会の翼さんに見てもらうと、運転席側のドラシャがやはり少し遊んでいるという事と、デフのバックラッシュを疑ってみましょうとの回答。
そこで素人判断だが、新品のLSDを購入してくれば問題は解決しないのか聞いてみた。
「結局、バックラッシュってのが新品のLSDに付けるリングギアと、デフケース側のピニオンギアとの歯当たりの問題なんです。組み替える時に絶対必要なのがバックラッシュ調節なんです。そのままポン載せはやめたほうがいいですよという事ですね。一回ケースを開けてバックラッシュを見た方がいいです」
「新品でも中古でもやる事は一緒なんです。ただ一つ怖いのが今付いてるデフ玉。ようはリングギアとピニオンギアが、ちゃんと合っていて調整できてる物かどうかですよね。例えばファイナルが4.1でもリングギアとピニオンギアがセットじゃない可能性もあるんですよね。4.1だからいいだろうといって、4.1のリングギアごとデフをポンと載せたところで、そのデフケースに合ってない4.1の可能性もあるんです。そうなると永遠にバックラッシュは取れない、歯当たりがない状態になりますね」
なかなか素人には難しい話だが、デフケースの中身を開いて、デフ玉、リングギア、ピニオンギアなどチェックしないと、そもそも間違って組み付けられている可能性も多分にあるという事らしい。
バラし
「毎週ですね、ミッション、デフは毎週絶対やってるような気がします」
相当慣れた手付きで、マフラー、ペラシャと外していく。デフは右側にあるABSの配線を外していく。
作業を見守りながら、いくつか疑問に思っていた事をここぞとばかりに投げてみる。
今回の症状は、やはりデフも何らかの問題を抱えているのだろうか?
「その可能性がありますね。じゃないと基本的にデフオイルが吹くって事はあまりない?一番最初にデフを組む時に目一杯オイルを入れて(入れすぎで)吹くっていうのはありえるかもしれないですけど、ここの穴(ドレーンコック)からデフオイルを足していって吹くって事はやはり何か原因があるかなと思います」
ドラシャ周りの異音については、複数箇所が原因になっているケースも多いそうだ。ドラシャもハブ側、デフ側(サイドフランジ)がありデフ自体の問題もある。2箇所直したら音が出なくなったケースも多く、小さい要因が重なって大きくなる事もある。
となれば、ドラシャもデフも問題があるという事だろうか?
「そうですね。今、開けてみますけど、それほどバックラッシュが起きてるような感じはしないですね。これだったら音が急に大きくなったと感じる事はないと思うんですけどね。例えばビスカスから機械式を入れて音が大きくなったって感じるのはあると思うんですけど、この状態でいきなり音が大きくなったと感じるのは基本的にはないと思いますね。デフの中のシムもそんなにズレないと思いますね」
メンバーのクラック
SR、RBに強い翼商会なら同じ症状を抱えた人が来ると思うのだが、どうなのだろうか。
「メンバーのクラックが多いですね。走るとなりますよね、S13は特に。だからS15メンバーにしたり、裏に鉄板補強を入れたりします。リアってデフが暴れる上に、S13のメンバーって横の取付部分が弱いんですよね」
翼さんによると、高年式やサーキット走行をしている車両は、メンバーの真ん中あたりにクラックが入る事が多いそうだ。
また、S14、S15のメンバーはブッシュを介してデフをマウントしているのに対して、S13用はリジットの為にメンバーに直接負荷をかけている事になる。
では、トラクションも良くなるという、S15のメンバーに交換してしまえばと思うが、そこそこ大作業になるので、何らかの理由がないと簡単には踏み切れない。
「そうですね。ただメンバー自体が前傾になる訳ではないですね、角度とか一緒なので。剛性が良くなるのでトラクションの掛かりも良いと言われるんですけど、それが嫌いな人もいるんですね。結局ウェットだと今までよりピーキーになったりとか。やればいいって訳じゃないですね」
つまりセッティングの一環といった所だろうか。
ちなみに、31シーマなどのメンバー流用も可能だがトレッドが広がってしまうので、好き嫌いがあるだろうとの事。
デフを開けた結果
そんな会話をしてるうちに、デフを開けてみる。
点検してもらうと、どうやらバックラッシュではないようだ。またドレンのマグネットを見ると鉄粉もなく綺麗な状態で、油量を見ると入れすぎで吹くケースにも該当しないとの事。
さらに調べてみると、デフ玉の中にガタツキがあり、こんな事は珍しいと話す。
「横軸のガタって普通はここまでないんですよね。デフが効き始めて、左右差が生まれた時に一度フリーになるじゃないですか?その時にこのガタとドラシャのガタで大きくなるのかな?」
確かに両側のサイドフランジを動かすと、デフ玉に開いた隙間からガタツキの様子を見る事ができる。バックラッシュ、サイドフランジ等の問題ではなく、どうやらデフ玉のわずかなガタツキが今回の症状の原因のようだ。
ただ、ドラシャの可能性も捨てきれず、こうしたケースの場合ひとつひとつ潰して行ったほうが分かりやすくお財布にも優しい。
対応策
デフ玉の中も調整で直る可能性もあるが、中古の在庫があるとの事で出してきてくれた。
ファイナルは同じ4.1だがケースはABSなし。同じ車種用でもすんなり移行出来ない場合もあるというがどうなのだろうか。
「大丈夫そうですね。ファイナルが両方共49対12 つまりリングギアが49枚、ピニオンギアが12枚。リングギアに刻印が打ってあるの分かります?サイドフランジとピニオンギア、リングギアはこのまま使って、デフ玉をこの中古から移します」
デフケースの長さ、ペラシャへと続くピニオンギア、デフ玉に付いているリングギアは調整が必要で、調整しないとバックラッシュの原因となるので極力違う物を使わない。リングギアを止めているボルトの径はメーカーによってM12、13と違う場合がある。
こうした条件をクリアして、デフ玉を交換できるのだが、たまたま条件が一致したようなので入れ替えてもらう事になった。
交換
中古のデフはオイル交換をさぼっていたのだろうか、中は真っ黒だった。これを見るとデフオイルも定期的な交換の必要という事が分かる。
シムにマーキングをしているが、これはどういった意味があるのだろうか。
「これは、シムをどっちがどっちか分からなくならないように。ようはシムって左右で振り分けるんですけど、シムって純正状態のシムの厚みから変えなければバックラッシュでずれたりしないので、このまま使いたいんです。だからマーキングしとけばどっちだっけって分からなくなる事はないんです」
イニシャルトルク
イニシャルトルクの調整とよく聞くが、中にはデフをバラさずに調整できるような物も出ていて調べてみると面白い。
人によってはデフにこだわりを持つ方もいるだろう。大会でも活躍している翼さんに好みのデフについて聞いてみた。
「うーん、あまり気にしない方ですね。デフって基本的にイニシャルトルクと何wayかという所なんで。でも知り合いに教えてもらったんですけど、1way寄りの方が以外とドリフトでは武器になるのかなって思うんですよね」
「基本的に2way入れるじゃないですか?1way寄りの方がアクセルがパーシャルの時とかに頭が入るんですよ。アンダーに気を付けないといけないんですけど、アンダー殺せる走り方をするのであれば、1way寄りの方がいいんですよね。それはちょっと気に入っちゃいました。2wayはアクセルオフでも効く、1wayはアクセルオフで効かない。1.5wayの効きは、2wayの半分だと思ってください」
中古の難しい所
作業も残す所、取付けだけになりデフ交換、ドラシャ交換時の注意点について改めてレクチャーを受ける。
「まず、デフ玉によってサイドフランジの長さが違いがあると思ってください。なので、ややこしいのがデフ交換してる車両に、デフ玉だけ交換しようと思っても付かない事があるんですよ」
「デフ交換をする時には、デフ玉とサイドフランジ(スプライン)はペアと思ってください。で、ケースとリングギアとピニオンギアがペアと思ってください」
正常に機能するLSDというのは上記のペアがそれぞれ合っているという事が前提で、その上にサイドフランジの長さ、スプラインの歯数や径などが合って初めて成立する。
新車でドラシャやデフの状況を把握しているなら別の話だが、デフ交換をしている車両にネットで販売されているLSD(デフ玉)だけを新品で買ってきても、まずは現状がどうなってるのか把握し、その状態に合う物でないと問題解決にならないという事だ。
デフの異音
今回はおそらくレアケースかと思うが、デフの異音についてはいくつか種類があるとの事。
「今回のガコガコの他に、ゴゴゴって引きずるようなバックラッシュの大きい音ですね。デフのイニシャルの高い音とバックラッシュの音ってまた違うので。シャーっていうのは何か干渉してるんじゃないかな。一番まずいのはガンガンって明らかに何かを叩いてる音ですかね」
デフの異音については非常に難しいかと思うが、明らかに異音と分かる物もあれば、劣化により全く効かなくなり音がしないケースもあるようだ。
今回の異音に繋がる要因は何なのだろうか。バーフェンを組んでトレッドが広がり、ハイグリップタイヤを履いた事が原因なのだろうか?
「それくらいではならないと思いますよ。もっと激しい仕様にしても基本的にはならないと思います。あるとしたら経年劣化か、6穴のドラシャが弱いのでそれのせいか。デフのガタのせいで、デフだけで留まらずドラシャまで影響しちゃってドラシャを駄目にしちゃった可能性もあります。たぶん一番それが説明が付くと思いますね。両方一緒に駄目になるって、片方がイタズラしてるケースが多いんですよね」
ドラシャ
これを読んでいる方の中には、同じ症状を抱えている方もいるのではないだろうか?現在、S13のドラシャはリビルド品もない状況だ。
そこでドラシャが駄目になるアラートと中古品を買う時の注意点を教えてもらった。
「今の数ミリ程度のドラシャの遊びなら、よっぽどシャコタンとか競技に出すとかでなければ問題はないかと思います」
「SR系の6穴のドライブシャフトって、ONかOFFが多いんですよね。飛ぶ時は飛ぶっていう。中がバラバラに砕け散るんですよ。ドライブシャフトって、アウターとインナーに分かれてて、インナー側に玉があって、その玉がアウターを破壊するんです。で、中がぐちゃぐちゃになるんですね」
「中古を買う時は、まずシャフトブーツがボロボロなのは絶対にやめた方がいいですね。ようは一回水が入ってるようなやつはサビで中がぐちゃぐちゃになってる場合が多いですね。例えば寒冷地だと塩カルの影響受けてる可能性もあって、そういう所でドライブシャフトのブーツが1回でも破れて、オイルが飛んだりしたらすぐに錆びちゃう。あとはシャフトに点サビがあるとか、そういう所で見極めてもらえれば」
メンテナンスついでにカスタムしたくなるのはクルマ好きのサガだと思うがS14、S15用の流用などできないのだろうか?
「左右で長さが違うだけなので、6穴だったら基本的には使えますね。今の状態だったらメンバーも綺麗だし、やるとしたらデフ側を5穴にしちゃいます。ドライブシャフトをもう少し強い5穴にして。あるいはGTRの6穴ですね。これって2、2、2の6穴じゃないですか?GTRの6穴って等間隔なんですよ。GTR、31シーマ、たしかZもそうだったと思うんですけど一番強いんですよ」
S14、S15の流用は可能で、GTR、31シーマ、Zのドライブシャフトはサイドフランジの長さと形状、スプラインの歯数が合えば流用が可能なそうだ。
ちなみに、翼商会ではこうした悩みに対応する面白い商品を開発しているそうで、完成したらストリートシックでも紹介したいと思う。
作業を終えて
知識の豊富さと手慣れた作業、ボルトまでマーキングする几帳面さに驚きながら作業を見守った。
最後にワイドで扱いやすいというオルビスのオイル(85W-140)を入れてもらって作業終了となった。ちなみにオルビス通常のミッションやドグにも使っているというオススメのオイルだそうだ。
「とりあえず一つ要因であろう所はこれで消えたと思います。デフはあの状態で走ってたら最悪ブローしてた可能性もあるんで、自走不可になっていたかもしれないですね。ただ、気を付けないといけないのは、これで運転席側のドラシャが駄目ってなったら、早めに交換しないと今度はドラシャがデフに影響を及ぼす可能性もありますね」
S13に限らず、デフとドラシャ交換は奥が深いので、翼商会のようなノウハウを持ったショップに依頼する方が良いだろう。
記事内の①と③の動画を見比べると分かると思うが、このわずかなガタツキがブローに繋がる要因となる場合もあるので、症状が出始めたら先手を打ったほうがお財布にも優しいだろう。今後はドラシャをどこかのタイミングで交換したいと思う。
この後の経過報告としては、翼さんの言葉通り異音は無くなった。
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