S13シルビア、180sxの純正ブレーキをご存知の方なら、悲しいほど貧弱というのは今更といった所でしょう。
ブレーキが純正のままで、ホイールを18インチにインチアップするとスカスカになってしまい、見た目もこれまた悲しいほど貧弱になります。
では、ブレーキを見直しましょうとなった時に、実は色々考えないといけない事がありました。
何をしたいか
まずキャリパーに関してはBrembo、AP RACING、STOPTECH、WILWOODをはじめ国産メーカーからも色々リリースされています。
ローターにしてもスリット、ドリルド、2ピースなど探しているときりがないほど。昔と比べると選択肢もかなり広がっています。
フェンダリストに出ているショウカーなどは、大口径のローターに、キャリパーはホイールのスポークにギリギリといった芸術的なセットを見る事ができますが、あれは経験も知識も普通ではない方達の作品なので、いきなりそのようなセッティングは無理だと思います。
今回のブレーキ見直しにあたり、色々な方に相談した所、“何をしたいか”といった答えに行き着きます。例えば、アタック、レース、ドリフト、街乗り、ショウカー。それぞれ求める目的があるので、それによっても答えは違ってきます。
180sxはデモカーながらストリートカーで、時々サーキット、ショウカーという方針でカスタムを進めているので、そのあたりを加味しつつ、ステップアップしてベストな答えを探っていきたいと思います。
流用
前述した内容から出した答えは“流用”です。定番と言えば定番ですが、興味がある方も多いのではないでしょうか?
流用プランは以下になります。
■フロント
33スカイライン(タイプM)純正対向4ポッドキャリパー(中古)
33スカイライン用DIXCEL(296φスリットローター)
■リア
純正片押しキャリパー(中古)
シルクロードビックローターキット(302φスリットローター)
■その他
gktech ブレイドブレーキラインキット(S14/S15用)
ENDLESS SSSブレーキパッド(前後)
下調べ
流用プランで一番最初に決まったのは、リアは純正の片押しをオーバーホールしてそのまま使うという事。
これに関しては、ドリフトをされている方なら分かると思いますが、コントロール性が高いという理由と、リアを対向にする事も考えましたが、コスト的な問題とサイドブレーキの加工が必要になる為、今回は片押しのままにしておきます。
フロントのキャリパーはS13だと、32、33スカイラインのキャリパーが簡単な加工で流用できますが、33のキャリパーの形が好みだったのでタイプMの純正を探しました。
33スカイラインには純正ブレンボもあるので、それも考えましたが、フロントだけブレンボというのもバランスを考えるとイマイチです。
この当時のNISSAN車両は、純正パーツにしても色々なラインナップがあり、流用出来る物が多いので調べていると楽しいですね。
ローター
ローターについては、ドリドレのますだーまん氏が「ローターはフロントが少し大きめが正義」とこだわりをアドバイスしてくれましたが、リアのビックローターキットが302φあり、フロントをそれ以上の大きさとするとキャリパーから考え直さないといけないので今回は断念します。
ちなみに、ローターについてはMAXドリフト(S13用330φ)、326power(S13用330φ)、プロジェクトミュー(33用296φ)など発売されていますので参考にしてもらえればと思います。
またブレーキホースに関しては、SWAGE-LINEかキノクニのホースとアールズのフィッテングで造ってもらうか考えていましたが、gktechのブレーキホースがバンジョーボルト(ブレーキフルードが通る穴が開いたボルト)も付いていて加工もいらないとの事でgktechを購入しました。
塗装
作業は、前回もお世話になった群馬にある翼商会にお願いします。
まずは、事前にお願いしたキャリパーとローターのベルハウジングの塗装を確認します。
色なのですが、キャリパーに強めの差し色を入れると塗り直すのが大変なので、無難にボディ色に近い落ち着いた色を選択します。
キャリパーは中古を購入しましたが、塗装すると素地の凹凸が顕著に出るので、なるべく傷がない物を選ぶと良いでしょう。
写真を見ると傷を消す為に綺麗に削ったり、パテを入れるのは難しいのが分かります。また、塗料に関してですが耐熱塗装じゃないと駄目という意見もありますが、ローターが真っ赤になるほどの走り込みはしないかと思うので通常の塗料でお願いしました。
ローターは全部塗装して、最終的にベルハウジングだけ色が残るようにしたいと思います。
作業開始
この手の作業はお手の物といった翼さんですが、さっそくローターを外しバックプレートを加工していきます。
バックプレートに関しては短冊切りをして広げる加工もありますが、後の作業で手を切る可能性があるのと見栄えが悪いという理由で、ローターが大きくなる事で干渉してしまう部分をカットします。
ちなみにバックプレートはないと、ローターに砂利が入ったりするので取るのはやめましょう。何よりナンバー付き車両は車検に通りません。
ここで豆知識を教えてもらいましたが、カットしたバックプレートを簡単に塗装する方法です。
ホイールを買うと付いてくる真ん中が開いたダンボール。これに切れ目を入れてバックプレートを写真の様に包んで塗装すると綺麗にマスキングが出来てしまいます。
純正との比較
180sx後期の純正ローターサイズは[F]280φ [R]258φになります。
これが変更後は[F]296φ [R]302φと、数値上でかなり変わると分かるのですが実際にどの程度変わるのか比較してみたいと思います。
■リア
まず、リアですが258φ→302φになりますが、44φアップしただけでこれだけ違いがあります。
感想としては、よくこれで止まっていたなと思うくらい純正が小さく見えます。ちなみにシルクロードのビックローターキットはキャリパーを外側にオフセットさせる為のブラケットが付いているのと、5穴にも対応しているのでありがたい商品です。
■フロント
フロントは280φ→296φ。その差はわずか16φですがリアほどではないものの、大きく異なっているのがわかります。
オーバーホール
前後のキャリパー、ローターを外し終わった所で、翼さんにキャリパーのオーバーホールについて聞きます。
今回はすべてお任せだったが、どのような作業があったのだろうか。
「ピストンはそのまま使ってます。傷も何もなかったんで綺麗に磨いてからそのまま使ってますね。シール、ゴム関係はすべて新しくしてます。シリンダー内のシール交換とダストブーツ交換、あとはゴム関係は新品にして、全部ばらしてグリスアップしてます」
「パッと見はダストブーツの所が違ってると思うんですけど、問題なのは中身をバラすのが厄介なんですよ。ピストン取るのは、エアーで吹いてある程度まで出すと簡単に取れるんですけど、奥にスナップリングがあって、それを外すのが大変なんです」
ウィークポイント
リアに関しては、片押しのウィークポイントを教えてくれた。
「リアは片押しじゃないですか?ピストン1つじゃないですか?で、パッドを締め付ける時にここが軸になるんです。で、押さえつけるんです。だからここが自由に動く事によって片減りがしなくて済む。ようは一点だけ止まってると片減りしちゃうじゃないですか?ピストン押してる方しか効かないんで。それを無くすためにこいつがいる訳です」
「で、たまにあるのが、ここが固着しちゃうんです。サビとかで。そうすると片減りしちゃうんですね。ここの中に水が入って油膜切れしてサビてしまうんです。今回は磨いて綺麗にしてグリスアップしてます。走る車ってサイドを多用するんであんまりないんですけどね」
片押しの良さ
リアは純正をオーバーホールして、そのまま使う事になったが、対向に変えようと思うとどの程度作業が発生するのだろうか?
「サイドブレーキの取り回しが違うので、サイドブレーキワイヤーを変えないと駄目ですね。で、中間で留めるためのステーを作らないといけないですよ。大工事?うーん、しょっちゅうやってますけどね」
ドリフトをするなら片押しが良いと聞いたが、それについてはどう考えているのだろうか?
「どちらかと言うとインドラ入れちゃう人が多いかもしれませんね。僕はドリフト中にリアのトラクションをかける為にサイドブレーキをロックさせたくないんでインドラじゃないです。一番いいのは油圧サイドにわざと純正パッドとかで効きをマイルドにした方がいいのかなって思いますけどね。じゃないとステージとか天候の変化によってモロに影響受けちゃうんで」
「インドラでハーフウェットだとロックさせたくないと思っても、ロックする事が多いですけど、片押しだと調整ができちゃうんで」
どうやら翼さんもこの状態からのステップアップとしては片押しがオススメなそうだが、ただリアはビックローターを入れないと、フロントだけ効くセッティングをすると危ないブレーキになるという事。
油圧サイドに効きの鈍いパッドという組み合わせもオススメだが、油圧サイドでローター径を上げるとなるとコストがかさむとの回答だった。
ブレーキ交換のコツ
作業が再開し、取り付けの段階になるが、翼さんがブレーキ交換の際のコツをいくつか教えてくれた。
まずは、交換にあたりブレーキホースの長さやテンションなどは出来るだけ純正の状態と同じにするのが前提で、なるべく純正部品を使いながら、ローターやキャリパーが大きくなった事を加味して作業を行うと良いそうだ。
「ローターが大きくなった分、ブレーキホースが外側に少しオフセットされてしまうので、ブレーキホースが突っ張らないように留めているブラケットを少し手前に曲げてブレーキホースに少し余裕を持たせてあげます」
「曲げなくても付くことには付くんですけど、フルストロークした時に突っ張った状態だと良くないので。あと、ブラケットにタイラップ留めしちゃうと、結局、ずれたり振動でブラケットに当たって駄目になっちゃったりするんで良くないですよね」
ブレーキホースの調整は長さ、テンション、クルマの振動、ストロークなど関わってくるのでDIYで交換する方もいるかと思いますが専門家に任せたほうが無難というのがよく分かります。
バンジョーボルト
リアが組み上がります。ローターにスリットが入るとテンションが上がってきます。
フロントはリアほど時間がかからないそうですが、片押しから対向に変更する際に必ず必要な加工があるそうです。
フロントのバンジョーボルトは、ボルトに穴が開いていてフルードが通りますが、これを元々付いていた片押しのバンジョーボルト(写真右)を使うと長さが違う為に、写真のように締まりきらないそうです。
「13の純正を切って使ったり、ワッシャー噛ましたりする場合もあるみたいですけど油路の高さが変わるのでNGです。gktechのブレーキホースに付いてくるバンジョーボルト(写真左)は高さが流用前提に作られてるんですかね。ピッタリのサイズなんでいつも使わせてもらってます」
ブレーキフルードを抜いた後、フロントのキャリパーを組み付け、エア抜きとブレーキペダルの位置調整をして作業は終了しました。
ブレーキの効き
この後、敷地内で180sxを動かして異常がないか点検します。
ここで翼さんに「ブレーキは効くようになった?」という素人質問を投げてみます。
そこで返ってきた回答が、33スカイラインのキャリパーを付けたなら、33のマスターシリンダーとマスターバックを変えてはじめてキャリパー本来の性能が出るという事。
その上で、ブレーキについて色々教えてくれた。
「ブレーキって摩擦で止まるもんじゃないですか、摩擦力が上がれば止まりますよね。あとはそれに踏力。結局、ローターとキャリパーを変えた所で大元となるブレーキのマスターとマスターバックを変えないと。制動力をきっちりやろうと思えば33のマスターとかキャリパーに合った容量の物を使ったほうが良いですね。ただ今回のは4ポッドの対向になるのとローター径が上がるのでフェードも起きにくくなりますし、コントロール性が上がると思います」
「ブレーキが効くっていうニュアンスも色々あるじゃないですか?初期制動が高くて効くなのか、踏めば踏むほど効くなのか。なので、一概に言えないですけど、一般の人が求めてるのって、だいたい求めてるのは初期制動じゃないですか?っていうのって、街乗りユースって考えると実は危なかったりするんですよね。サーキットだけならいいですけど、使いにくいと思うんですけどね」
一般的にブレーキに求めるニーズは、初期制動が高いブレーキを求めがちだが、誤ってロックさせてしまうなど目的がない限り避けた方が良い。またフロントだけ効いても扱いにくいし、バランスも重要と話す。
「制動力ってあって悪い物じゃないんで。初期制動は別ですよ。懐の深さ、踏力を与えれば与える分だけ効くブレーキはあったほうがいいと思います。踏んでも効かないじゃんっていうのが本当に駄目なブレーキ。踏めば効く、初期は甘いけどっていうのはいいと思うんですよ。パニックブレーキをドンって踏んだ時にも安心です。例えば、初期制動が高いブレーキだと、ハーフウェットの時にいきなりツルってリアが出ちゃったって時に、ドンって踏んだらそのままスパーンって行っちゃうんで(笑)」
その上で、今回の流用プランはステップアップとして良いという意見と、コントロール性が上がった事に注目してほしいとの事だった。
レビュー
交換後、しばらく乗った印象としては、翼さんの指摘通りコントロール性が上がったという表現がよく分かります。
上手く伝えられないかもしれませんが、純正と比べて懐が深くなったので、軽いタッチのブレーキと踏み込んだブレーキを使い分けられるといった所でしょうか。
あとは安心感。以前と同じ踏力でも踏みごたえがあり大きな力が働いてくれるように感じます。心細かったブレーキの印象がかなり変わりました。
見た目に関して言うと、もっと大きくしたいという欲求が出てきてしまいます。しかしその反面、ステップリム、あるいはバブルリップのホイールにして隙間を埋めてしまうのもありです。
ドリフトをするならナックルを入れたくなるでしょうし、そうした場合これくらいのクリアランスがあったほうがいいでしょう。
いずれにせよ、ここより先はホイールと計算が必要になりそうです。
掛かった費用
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