北関東のとある場所に、腕のいいオススメの所があると連絡をもらった。
そこで、下調べとしてネットやSNSで検索してみたが、まるで情報が出てこない。いったいどういう事なのだろうか?前評判と反する結果に、逆に興味をそそられていた。
知る人ぞ知る場所
当日、現地と思われる場所に到着すると、看板はないがドリ車、旧車、カスタムカーがずらりと並んでおり、大勢の方が出迎えてくれた。
オーナーは翼さんで気さくな感じの方だ。集まっている方々も何か楽しげである。
まるで秘密基地のようだ。
「基本的に来てくれる方は走り屋系の方が多くて、その中でも大会系の方が多くて」
「一日ずっとお店にいるわけじゃなくて、業務だと陸運局行ったりとか、夜だと事故が起きたらレッカーに行ったりとかってのも多いので、正直なところ宣伝をしようと思った事がなくて、口コミだけでいいかなぁと思って、かれこれ5年ですね(笑)むしろお店っていうよりは、周りが楽しんでくれたらいいなって」
想い
「SNSもやらないといけないなって思ってるんですけど(笑)今はフォーミュラーDで益山(世界のマスー)のスポッター役として全戦回ったりとかしてて、そうするとお店を空ける週が出ちゃうので」
スポッター以外に自身もD1Lightsに出場していたり、様々な活動を行っているそうだ。もし宣伝をしてお客さんが殺到した時に、お客さんを待たせるのが嫌なそうで、口コミだけで営業しているという。
「もちろん来ていただけたら喜んで作業させていただきますけど、あのー、どっちかというとアットホームな感じでみんなが楽しく趣味の話ができる場所造りでいいのかなって」
話の内容からすると、ショップという感じでもないのだろうか?
「全然、全然。だから他のお店を紹介したりもするんで。やっぱりそこに特化にしてるものってあるじゃないですか?うちだったらスカイライン、シルビア系が強かったり。そういう意味で紹介したりってのもありますね」
作業場にあったマシン
作業場に案内してもらうと、何かの工場跡だろうか、天井の高いスペースで、これから塗装ブースも設置するそうだ。
リフトには大会用のマシンが上がっている。
「側は32のスカイラインの4枚ですね。エンジンはRB30。オーストラリアのエンジンですね、30の3.1Lを積んだ所です。元々はSOHCの単カムのヘッドが載ってるんですけど、RB25(DOHC)のヘッドを載せて」
と、マニアックな内容の話に聞き入る。
「RB系って基本的にベースの構造が変わらないんで、ほぼポン付けでいけちゃうんですよ。オイルリターンとかターボ周りきっちりしちゃえば。で、今の大会系だと排気量勝負っていう所があって、どうしてもトヨタのエンジンじゃなくて、日産のエンジンでいきたくて、2Jに対抗できるとしたら、これくらいしかないなと思って」
「これにミッションは、ながおテクノ入れようと思ってます。ギア比的にはOSに近いんですけど、ストレートカットのギア使ってて。それが周りでも評判良くて。で、180sxがOSのクロスなんですよ、それに近いんで。ファイナル4.3とかにしちゃえば、ドンピシャで色々合っちゃうんで使いやすいかなと思って。今の大会とかだとドグとかのが有利だと思うんですけど、まぁ、そこまでする意味もないかなと」
次期大会マシンとして造っているスカイライン、これまでのメインマシンだった180sx。いずれも翼さんのノウハウがびっしりと詰め込まれたマシンのようだ。
また、ナックルをはじめオリジナル商品も造っており、これが好評らしい。
「180sxは、30AっていうRB25のミッション載せてて、それの変換をうちのオリジナルで出してて。スカイラインは来月くらいに完成予定でLowstarsで見に来てくれた人を乗せるドリフトタクシーでデビュー予定です(笑)唯一、僕だけ車高が高いんですけど(笑)」
ルーツ
世界のマスーさんのサポートや、自ら参加する大会での活躍。口コミで人が集まる翼商会のエンジニアとしての側面も持つ翼さん。
聞けば東京出身らしいが、翼商会のはじまりやそのルーツを知りたくなった。
「子供の頃、カートから始まってフォーミュラ乗ってたんです。で、F4にステップアップする頃に、年間2000万くらいかかるって話で。プライベーターじゃ無理じゃないですか?んー、ちょっとなぁって思ってる時にドリフトに出会って。それまでまったく興味なかったんですけど、影響受けちゃって。で、ドリフトだったら手軽に遊べるじゃないですか?そこからずっとですね」
元々は医学部に進もうと思っていたほどの理系で、話しぶりや作業を見ているとそれがよく分かる。
理解できない大人から見れば疑問に思ってしまうかもしれないが、将来を約束された道より、やりたかった事を実現している人はどこか違う。
「今はそうですね、満足してますね。正直、こっちに来た時は誰も知り合いがいなくて、完全にアウェーな土地だったんですよ。だから友達作るのにどうしようって思ってゲームセンターに行って、暴走族の人に声かけたりして(笑)今考えたら何してんだろうなって(笑)そんな感じでしたね」
まるでドラマのような話だが、ドリフトにハマり、当時ストリートが盛んだった土地に、何のツテも無く引っ越してきたという。
翼商会
徐々に人脈を作り、翼商会を始める事になったらしいが最初は苦労したそうだ。
「最初は、それこそブローカーみたいですね(笑)普通にクルマの売買、車検整備くらいで。あとは昔って今より走ってる人が多かったじゃないですか。そういう人達の面倒を見るじゃないですけど。今もそういうルーツは変わらないですよ。人が集まって欲しいっていうのはあって。でも集まってお金使ってくれって感じではないですね」
今でも趣味の延長線上にあるホームベースのような場所、同じ趣味の人が自然に集まる場所という当初の想いは変わらないらしい。
特色
翼商会の特色としては、ドリフトに強く日産系。エンジンでいうとRB、SRが多いそうだ。もちろん大会で勝つことを前提とした競技車両から、ストリート仕様、最近では置き車も手掛ける事もあるそうだ。
スワップ、エンジンの載せ替えは日常茶飯事で、工賃を聞くと驚いてしまった。
それでいて、作業は繊細でしっかりとやってくれる印象だ。勿論、出来ない事は出来ないとはっきり言ってくれる。
「できるよって背伸びして、お客さんのクルマを壊すのは嫌だし、お客さんのクルマを実験材料にするわけにもいかないんで(笑)」
価値観
自身の活動としてミッション加工、足回りの制作、板金塗装、チューニングまでやっている為、慣れた作業という理由からの価格設定だろう。ただ、活動資金などを考えると大変なのではないだろうか?
「けっこう大変ですよ(笑)けっこう大変です。ただ、幸いな事にここに来てくれる人が友達を連れてきてくれたり、そういう面白い口コミみたいなのがあるんで」
「一番最初は外観もこだわったお店にしようかなと思ったりもしたんですけど、それも何か普通だなって。そういうんじゃなくて、何ていうんですかね(笑)まぁ、こんな感じのちょっと汚いですけど、みんなが気兼ねなく集まれるような環境がいいなって思って」
「うちなんかお店の看板ないし、入りにくいと思うんですよ。でも、ここ何だろうって勇気を振り絞って入ってきてくれた人が、ずっと来てくれるようになったりするんですよね」
その言葉の通り、商売や体裁はそっちのけで走る人やクルマ好きのサポートをしてくれる。何故、そこまで面倒を見ているのか不思議に思うかもしれないが、きっと“好き”だからという回答が返ってくるだろう。
大会や遠征が終わると、ここでのんびりと仲間とやっている。お金がなくても、クルマ好きにとってはこれ以上ない幸せかもしれない。
「人が一杯いても作業してますよ、結局お客さん同士が仲良かったり、仲良くなってくれるんで。みんな遊んでくれてるんで、あんまり大変ってのはないですね。作業してると、次これやりたいよねって感じで見てくれたりもしますし。そんな感じですね」
置いてきた物
一昔前は走る人、翼さんのように面倒見がいい人、翼商会のような場所がたくさんあったように思う。
今では、このようなストリートカルチャーはかなり減少傾向にあると言われているが、ドリフトにおける、ストリート、大会といったシーンに対して思うところはあるのだろうか?
「長く続けられる人が減ったのかなっていうのは思いますね。かかるお金に対して、走る時間って短いじゃないですか?だから他の趣味に移行してしまう人がいるっていうのが現実かなって思います。昔、成績を残してる人って面白味を知ってるんで、残ってると思うんです。でも今の大会しか知らない人達って、勝つためだけにやってるってなってしまうと、勝てなくなったら辞めちゃう人がすごく多くて」
「だからどの世界でもそうだと思うんですけど、根本的に楽しんでるって人が少ないんで、僕の場合はルーツがストリートでしたけど、クルマに乗る面白味っていうのを共感してもらえたらなって。そうすれば辞めないと思うんですよね。今の大会ってレースと一緒ですよね。昔ってイベントだったんですよね。勝ちにこだわるっていうよりは、盛り上げてなんぼって感じですよね」
リアルな意見であり、正確に現状を切り取っていると思う。勿論マイナス面ばかりではなく、マシンや技術、ドリフトの認知度は格段に向上しておりアングラだったドリフトがメインストリームな競技として確立した功績や意義は大きい。しかし、その過程で置いてきてしまった物もあるようだ。
継続
ただ、大会に出る事がドリフトの全てではない。翼さんも言うように、手軽に始められるし、何よりも自由なのがドリフトの良い所だろう。
むしろ見方を変えれば、競技もあるし、地元のサーキットで気軽に楽しんだり、ドレスアップしてギャラリーを沸かすイベントもある。それこそ昔よりも選択肢は増えているのではないだろうか?
翼さんは、ドリフト初心者や行き詰まっている人に向けてこんな言葉をくれた。
「クルマにふれる時間をちょっと長く取ってもらえればなと。走らなければいけないんだよっていうんじゃなくて、クルマ好きでずっといてほしいですよね」
「あと、やっぱり僕なんかはすごく環境的にも恵まれてると思うんで、そういう関係を持つ?普通の趣味とまた違う所もあるんで、一人ではできない、周りの助けがないと難しいと思うんで、そういうのを含めてクルマなんだよっていうのを知ってもらいたい。だから僕、お客さん同士が仲良くなるのが嬉しいんですよね」
たかが趣味、されど趣味。続ける事で見えなかった景色が見れるかもしれない。そして、それはきっと人生を豊かにしてくれるだろう。
「まぁ、趣味ですよね(笑)本当に、こんなボロい感じで、クルマ屋なの?って思われるかもしれないですけど。でも、僕はこれが夢だったんで」
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翼商会
〒370-0615 群馬県邑楽郡邑楽町篠塚2759-1
定休日:不定休(レース、イベント日はお休み)のため、ご来店の際はお電話下さい。TEL:0276-59-9758
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