表舞台に出てこない匠の職人というキーワードに惹きつけられる。
北米野郎の小林氏や、86のHOLYさんをはじめとするシーンの立役者が頼りにするショップと聞けば興味が沸かないはずはないだろう。
国産からユーロまで
場所は宇都宮、約束の時間に到着するとオーナーの小林さんとスタッフの方が準備をしてくれていた。
場内を見渡すと国産からユーロ車まで置いてあり、守備範囲の広さに驚く。
「自分がゴルフをずっと乗っていたので、ユーロの人達が来てくれるようになって。で、元々はメーカーの整備士だったんですよ。実家も自動車整備工場やってて、そっちもオールジャンルでやってたんで、国産だからとか欧州車だからで断る理由は特になくて」
小林さんは、カスタム専門という区切りはしておらず取り扱う車種もボーダーレス。カスタムの方向性についてもこう語る。
「うーん、足周りが中心なんで。どうなんでしょう(笑)SPECのSはストリートのSなんですよ。なのでストリートでカッコいい車をっていう感じですかね」
表舞台に出ない訳
それにしても置かれているクルマの足元を見れば、ミリ単位で計算されている車両もあり、相当なスキルの持ち主と思うが、それを誇示する訳でもなく丁寧に説明してくれる。
インターネットでショップ情報を探しても特に宣伝をしていないようだが、これは何か意味があるのだろうか。実績を思えば、何らかの情報が見つかるかと思ったのだが。
「僕があまり表舞台に出ないほうがっていう所ですかね。北米野郎の小林くんもそうですけど。お客さんが主役じゃないですけど。どっちかというと僕がこうした方がいいんじゃないのっていうよりは、お客さんがこうしたいんですけどっていうのを叶えるって形で」
「そこでやりたいジャンルがあって、そこに対して違ってる時は、アドバイスするくらいで。あくまでもお客さんがやりたい事をイメージして、その中で一番カッコいいクルマを造るというか、そういう感じですね」
終始このような姿勢で、お客さんの意思を大切にしているのが印象に残った。
経歴
「色んなクルマに乗ってきて。CROSS FIVEっていうイベントも1回目からアワードもらったり。その中で自分はドイツ車の造りに魅力を感じて。今日は乗ってきてないですけど、今はAudiのS5をメインで乗ってます」
メーカーの整備士というバックボーンを持ちながら、昔はショウカーを造っては多くのショウを渡り歩いてたそうだ。そうした活動と共に自然とお客さんが集まるようになった。
ユーロ車という括りは幅が広いと思うが、どのような車種が多いのだろうか?
「エアサスのゴルフを筆頭に、ゴルフはかなりやらさせてもらせてもらいましたね。ゴルフ5、6。で今は7ですかね。元々自分が乗ってたゴルフ4っていうのは3200が載ってるサーティツーっていうのがあるんですけど、それをカスタムして乗ってましたね」
「店先にあるのはシロッコですね、シロッコのタイプ2ですね。1型は丸目4灯の鉄バンパーで、2型になるとミラーとかバンパーが樹脂になってるんですけど。年式で言うとゴルフ2くらいですかね」
普遍的な物
基本的には、車種を選ばず足回りを得意とし、欧州車のマニアックなパーツも海外から輸入するというスタイルで、ストリートにおけるカッコいいクルマ造りを追求しているSPEC。
昨今のカスタムのトレンドについてはどのように感じてるのだろうか?
「そうですね、僕もトレンドはチェックしてるんですけど、今はお客さんの方が詳しいですね。ただ、トレンドも追いかけますけど、ずっとやってきたんで、自分の中でホイールと足のバランスでカッコ良さってだいたい決まってくるのかなっていう所があって」
「で、ジャンルによって少しバランスを変えますけど、ベースがしっかりしてれば、ショウとかでも映えるクルマは造れるんじゃないかなっていうのはありますね」
こうした話の内容から、ストリートの延長線上にあるカーショウを意識したクルマ造りをしているようにも感じた。
それはショップ立ち上げ時からのコンセプトなのだろうか?
「うーん。最初は意識してなかったんですけど、皆さん色んなショウに出したりするじゃないですか?で、出したいってなってくると、その次に自然にお客さんからアワードが獲れないんですよねって事になって。そしたらやっぱり獲らせてあげたいって気持ちが出てきて、そうしてる内にそうなったって感じですかね」
代理店
SPECはAirLift、AirREX、ビルシュタイン、XYZの代理店でエアサス、生脚のノウハウをかなりもっており、例えば“車重に対して適しているメーカー、ブランド”なんてマニアックなアドバイスしてくれる。
「自分自身がエアサスを付けてずっと乗っていたしショウにも出てたんで、どういう所が壊れるとか、こういうメンテナンスした方がいいっていうのがだいたい分かるんで。あとは組み方でエアーが漏れたりもあるし。そういうのを考慮してやってるんでトラブルはほとんどないですかね」
この発言の裏付けは、北米野郎の小林氏の生脚アウトリップや、HOLYさんのエアサス着地でのツラを見れば分かるだろう。
エアサス
最近はエアサスの依頼が多いらしいが、エアサスについて色々教えてもらった。
取り付けにあたり、どのような注意が必要でウィークポイントのような場所はあるのだろうか?
「例えば、これで上げ下げをコントロールしてるんですけど、これがホースだとしたら本当に真っ直ぐ付けるのが正しい付け方なんです」
「ただ、これをまとめて下に通すってなった時に曲がってたりすると、そこがエアー漏れの原因になったりするんです。2重ロックになってて漏れないようになってるんですけど、エアーを入れてる時と抜いてる時で圧力が変わるので、どこかに負荷が掛かってると経年劣化で、そこがエアー漏れの原因になる可能性が出てきたり。なので、取り付けはそういう知識を持った所でやったほうが無難ですね」
エアサスは配管を組むだけで機能するが、長い間乗る事を考えた時に、負担をかけない組み方が必要になってくる。また足回りへのホースの取り回し方にもコツが必要になってくるそうだ。
こうしたノウハウはSPECの強みで、日常的にエアサスを組んでいるショップならではだろう。
中古
興味深い話が続く中、あまり聞かないエアサスの中古について聞いてみた。
「中古ですか?うーん。漏れてる可能性もあるんで、組んじゃってから漏れてたら大変ですよね。メーカーとかによっても違いますし、中古の場合、前に組んでたクルマの取り回しとかによっても弱ってる箇所があったりもするんで、おすすめできないですね」
どうやら中古は避けたほうが良さそうだ。タンク、コンプレッサー、エアバック、配管、バルブ、フィッティング、コントローラーとその要素が多い事もあるのだろう。
AirLift
エアサスの売れ筋はどのような物になるのだろうか?
「値段の差は結構あるんですけど、うちだとコントローラーはワイヤレス式で、バックはフルタップ式が多いですね。AirLiftとかも優秀で、左右のエアーの差を見てて、減ったら勝手に補充もしてくれて。あと4モード設定出来るんですよね、ボタン一つで設定した所に上がって、万が一エアーが漏れても見張ってくれてるんで。トラブルも少ないしエアーの動きもスムーズだし、何よりシンプルなんですよ。やっぱりシンプルだと万が一壊れた時に、壊れた箇所を見つけやすいと思います」
取り付け工賃については、車種専用キットでも対象となる車両の状況、コントローラーを埋め込んだり、タンクを増やしたり取り付け方によって変わるそうだ。
エアサスを使ったセッティング
さて、エアサスを使った足元のセッティングだが、スラムド、ポーク、リムツラ、ショルダーでのツラ、リムガードなど様々なスタイルがある中で、SPECで多いスタイル、調整方法はどのような流れで行われるのだろうか?
「どうなんでしょう?ツラにするかポークするかが多いですかね。挿すと意外に低くないんですよ。かぶしちゃった方が低いんで。決めるのはエアサスが付いてからの話で、クルマを見ながらですね。細かい調整をしようとすると、アームありきなんですけど。やっぱりフルアームの方がオーナーさんのイメージが決まりやすいですね」
スタイルは海外の影響が大きいそうで、特にSNSでの動向に左右されるそうだが、決めるのは実際にクルマを見ながら打ち合わせるそうだ。それはやはり素材ありきで成立する事もあるからだろう。
アメ鍛
事務所にはマニア受けしそうなホイールが飾られており、足元のトレンドにアンテナを張っている様子が伺える。
SPECのおすすめするメーカーを紹介してもらった。
「そうですね、今はロティとか良いかなって思いますね。ロティはデザインがけっこうありますしね。あとはフィフティーンツーとかBBSのRSのリバレルとか出てますね」
SPECでは国産は勿論の事、アメ鍛も基本的に取り扱えないメーカーはないそうだ。また足回りを決める際に頭を悩ますオーダーオフセットなど相談にのってくれるので心強い。
実績があるから尚更だ。
カスタムの変化
国産、欧州車。エアサス、生脚とストリートにおける洗練されたカスタムカーを手掛けてきた小林さんだが、シーンを見続けてきた中で感じた変化はあるのだろうか?
「7年前くらいからは低さが、さらに低くなってきたんですね。で、それがちゃんと走れるとかフェンダー巻かないクルマが増えてきて、足回りもレートが選べたりとか車高調も下げる前提で造られるようになったり、まぁ低くて乗れるって環境はだいぶ良くなってきたんじゃないかなと思いますね」
「以前は市販の車高調をベースにしてたんで、ストロークを犠牲にしたりとかってあったと思うんですけど、今は元々短い車高調もありますし、レートも100キロくらいまでありますしね(笑)」
「あとは、ここ最近エアサスが本当に増えてきて、最初は都会の方が興味を持って入れてくれて。こっちの方は様子を見てたというか、怖いっていうのもあったんでしょうね。でも、それが少しずつ変わってきて、今は最初から車高調入れる前にいきなりエアサスからっていう方もいますよね」
同じ目線
足回りと一言でいっても煮詰める作業にはかなりの知識と経験が必要だ。パーツセレクトや調整、その要素も多岐に渡り非常に繊細。それは一度触った事がある人なら理解できるだろう。
SPECはスタッフと小林さんも“コアユーザー”である為、その目線はユーザーと同じ所を見れる数少ないショップかと思う。
その上、造り出す物は実物を目の前にしても「何故、干渉しないんだろう?」といった疑問を持つほどの絶妙なセッティングを出していたり、トータルバランスに優れたユーロ、USDM車両などを手掛けていたりするので、その実力は間違いないだろう。
「ハハハ、それは大袈裟ですけど(笑)まぁ、本人がやりたい事は叶えてあげたいっていうのはありますね」