PART1では、純正クオリティ仕上げのボディメイクや、足元のノッチ加工などを中心にフォーカスしたが、今回はエンジンルームや室内が、どのように料理されているのかチェックしていこうと思う。
エンジンルーム
エンジンルームはショーカーがよくやる、ワイヤータックは行っていない。それは、あえてハッチ外から、エンジンルームのメカニカルな様子が見えるから。
これもNSXという素材ゆえに成立するところだ。
ハッチを開けてもらうと、タワーバーについたピンクのブラケットに設置されたボルト、アンペアメーターが見える。アンペアメーターはスポーツカーにはあまり見ないがどういった意図があるのだろうか?
「アンメーター(電流計)なんで、どうなんでしょう?どちらかと言うとボルト(電圧)より、電流の方が見たいんじゃないですかね?電圧はどこでとっても、バッテリーで取るか、計器で測るかなので。電流はどんだけ食ってるかを見るんで。これは、アキュエアー(エアサス)が電流を食うんで、どんだけ食ってるか見たくて」
NOS
本マシンにはNOSが搭載されているとの事だが、走りにもこだわりがあるのだろうか?
「俗に言うニトロですね。そうですね、車高低いんですけど、頑張れば走れるよって意味合いですね。見た目が車高短なだけじゃなくて、一応走れる?飛ばせますんで。***キロ出ますよ(笑)」
「これがNOSのインジェクター(細い筒)ですね。アールズのホースから来て、インテークのところに燃料とNOSを混合して吹いてます」
「そこにジェット(メインジェット)が付いてるので、燃料とNOSの量を変えて。インジェクターはソレノイドで、電磁弁になります。これは一式でありますね。アールズのホースは耐久性というよりショーアップですね」
NOSといえば、海外のストリートレーサー、あるいはドラッグレースのイメージが強い。映画でもパージ(配管の空気抜く)しながら登場するシーンがあるが、前々から気になっていた費用について聞いてみた。
「NOSの充填はこのサイズで、4〜5万くらいかな。満タンにして。噴射の回数なので、何とも言えないですが、外にパージして一日遊んでると、すぐ無くなっちゃいますね(笑)」
本マシンにおいては、リアハッチのカーボンダクト部分(手に入らない数点物)と、ホイールハウスから吹くようになっているらしいが、その場のノリで使うには少しお高いようだ。
驚きのオイルフィラーキャップ
助手席側から、NOSのステッカーの箱は削りだしの蓋で、ヒューズBOX。エアクリは海外のブランドのMISIMOTO。
APEXのリザーバータンク、NOSの圧力メーター(青色)。
運転席側は燃料のレギュレーターとメーター、HPIのオイルキャッチタンク、オルタネーターはポリッシュ加工されている。
ワッシャー類は、ロゼットワッシャー(6角の周りが皿になっているワッシャー)に、先の尖ったバレット型のナットはMOONEYES。
エンジンルームは熱が入るので、ステンレスはまずいのではないだろうか?
「エンジンを連結してる部分なんかは、そうですけど。周りの補機類、あまり熱の入らないところのボルト類なんかは全部変えてますかね。エンジンルームも元々ノーマルだと蓋されてて、最初タイプRの蓋つけたんですけど、NOSとかのメーターとかが見えなかったんで、外しちゃって。で、外したら今度、殺風景に見えちゃったんで、バフ掛けしてみたり」
その他、マシニングで削り出ししているヘッドカバー(市販されてない)など、あまり派手にやり過ぎず、要所要所を抑えている。
エンジンルーム内で一番驚いたのは、オイルフィラーキャップ。なんと、元はホイールのセンターキャップで、加工してオイルのキャップしているらしい。
これも言われないと分からないほど、よく出来ていて小物ながらその発想に圧倒されてしまった。
エンジンルーム詳細
スプーンECU、NOSシステム、アペックスラジエーターサブタンク、carbon×アルミオイルキャチタンク、クスコ他車種エンジントルクダンパー、NRG燃圧計、アールズ燃料ホース、MISIMOTOエアクリ、ARCチタンマフラー、チタン触媒ストレートパイプ、USAメーカー?ステンレスヘッダー、ワンオフアルミインテークカバー、ワンオフアルミヒューズボックスカバー、etc。
室内
「こだわったというか、オールブラックだと走りに振っちゃうんで、これは当時のオプションであった色なんですけど、アイボリーを入れて。生地は当時の物を探してきて付けました。だからダッシュボード、コンソール、シート、天井は全部貼り替えですね。で、細々とした物も貼り替えて」
ダッシュボードのカーボンパネルは、ブラックとマットクリアで塗装して落ち着かせている。スポーツカーでは、Aピラーに追加メーターを埋めることが多いが、ツイーターを埋め込んで、トータルでシックになり過ぎないように、ここだけ艶を出している。
エンジンスターターは、NOSの噴射ボタンに改良して、後付感をなくしている。その横にあるメーターはオーディオだけの電圧メーター。
アンプは、運転席の後ろに設置。スペースがないのでなるべく薄くてシンプルな物をチョイス。その上にある筒は、CHRONICのキャパシタ。ピラーバーは、キャパシタとNOSタンクを付けるために役立っているそうだ。
グローブボックスには、ダコタデジタルのメーター。
「エアサスのエアーのメーターですね。自動なので本当はいらないんですけど、やっぱり心配で数字が見たくて付けました。上げた時にどれくらいエアーが何キロくらい入ってるか目視したいのと、エアー漏れの確認も兼ねてなんですけど」
仕事の道具をシフトノブに
アキュエアーの操作ボタンの前にあるシフトノブだが、どこかで見た事ある人もいるだろう。
「仕事で使ってた道具をシフトノブにしてます。エアーのベルトサンダーが壊れちゃって、ずっと使ってたやつなので、何かもったいなくて、それを加工してシフトノブにしました。ちゃんとシフトできるように加工してるので使えますよ」
カスタム好きなら、誰しも思い浮かぶ、ああしたい、こうしたいを、こうも自然に実現してしまう。誰にでもできる事ではないだろう。
ATにしたままなのは「あえてですね。歳相応っていうのもあるんですけど、向こうでさらっと乗ってるコンセプトもあって」と納得な回答。
確かに唐木さんがやると決めたら、MT載せ替えは、さらりとやってしまいそうだ。
遊び心
ステアリングとドアロックノブは、ビレットをセレクト。
「室内は、本気でやってそうで、どこか一箇所遊び心が欲しくて。バックミラーがトランプになってます。唯一、これが自分の中で遊び心ですね」
とはいえ、その付け方が普通ではない。
「あくまでも土台は純正を使いたかったんですよ。台座がアルミなので表皮を取って磨いて、ネジ穴のタップを造って付けてます。変なこだわりなんですけど(笑)」
たしかに、バックミラーは他にない色気のあるパーツで、その言葉通り遊び心として見える。
室内詳細
アルミリアソリッドパー、スプーンフルスケールmeter、DakotaDigitalメーター埋め込み、Accuairコントローラービレットパネル、ベルトサンター加工シフトノブ、シートエクセーヌ張り替え、センターコンソール張り替え、天井、サンバイザー、ドアセンター、ロアカバー張り替え、BUDNIKステアリング、トランプビレットミラー、アイボリーツートーン内装入れ換え、carbonダッシュパネル、etc。
トランク
トランク内はFRPで成形されたパネルでカバーされており、その下にはバッテリーやエアサスのシステムなどが隠されている。KOYOのラジエターの配管は腹下を通っているそうだ。
「ほとんどワンオフですね。NSXって元々スペアタイヤしか入ってないんですよ。で、ショーアップするにしても、エンジンルームが後ろなので、それじゃつまらないって事で、パネル類をワンオフして。これ全部外れるようにしてます。で、前はNOSのタンクが2機積んでたんですけど、今は、そのうちの1機をエアサスのタンク用にNOSタンク使ってます」
「ちなみに、ボンネット裏のサービスホールは全部埋めちゃいました」
配管の取り回し
エアサスの話に戻るが、アキュエアーは車高を調整するシステムで、エアバックはユニバーサルエアーを使っている。
これらの配管はトランクから腹下を通って、室内に入ってるのだろうか?
「配管は室内には入ってないです。アキュエアーなんで、本当に配線だけです。オートレベライザーなんで、原点復帰も記憶ができて、水平も取ってくれるので楽ですね。手動で1本ずつではないので」
アキュエアーには、自動で水平も取ってくれる機能、設定した高さに戻してくれる機能も付けることが出来るので、エアーの導入を考えている人はチェックするのもよいだろう。
イベント
「イベントは本当に色んな所に出さしてもらってまして、以前はスタンスネーション、クロスファイブ、北米野郎、WEK FEST、トラックマスターズとか。他にも100系のカローラワゴンとか何台かあるんで。トラック半分、USDM半分ですかね。あとインドアで出してるのが、MOONEYESがやってるHOT ROD CUSTOM SHOWですね」
ここに上げたのは一例にすぎないが、本当に多くのカーショウで活躍している。
もちろん、本人がトラッキン、ミニトラック、USDM、スタンスなど様々なジャンルに精通してる事は前提として、ジャンルを超えて人を納得させるマシンがゆえに可能な事だろう。
それは決して、簡単な事ではない。
「自分はどっちかというと、枠にとらわれて無いかも知れないですね。このクルマに対しては素材を活かすいじり方が好きなので。スポーツカーだから速くないといけない、部品を付けなければいけないっていうのは自分の中でないですね」
そのイズムには説得力があり、カメラマン共々、聞き入ってしまい時間が経つのを忘れてしまった程。
カスタム
「難しいですよね、カスタムって。ホイールが引っ込んでるからカッコ悪いとかってのも見せ方だったりするし。解釈によっても違いますしね」
「自分は、手数はかなり入れてるんですけど、やった感は見せたくないんですよ。ただ、知らない人が見ると、こんなもんだと思われてるのが事実かもしれないですね(笑)」
「引き算が自分のポリシーの中では好きな技法ですね。物をくっつけてやった感よりも、引いていって?レスしていって、シンプルに見せる。イベントでは目に付かないかなと思うんですけど、やっぱりクルマの持ち味出す方がいいですし」
「正直、人に色々言われる事もあるんです。でもまぁ、信念は持ってやってるつもりなので。これに乗って9年経ちますけど、未だに飽きはこないですし。じゃないと、このクルマでなくてもいいってなりますよね?だから、自分はですけど、今やれば賞取れるかなみたいな理由で、トレンドを取り入れるつもりもないんですね」
語るクルマ
このNSXには多くの事を学ぶ事ができる。それは単に技術だけでなく、何故こうなったのか、あるいは、何故こうあるべきなのかという事。
ひいてはオーナーの好みは勿論の事、そのポリシーやイズムにもたどり着く。
カスタムは奥が深い。日々カスタム、チューニングカーにふれる機会をもらっている筆者も再認識した。
唐木さんとの会話でこうも思った。
周りや状況がどうあれ、自身のアイデンティティを追求していくと、そこからはいつしか新しい物やムーブメントが生まれるんじゃないだろうか。
このNSXで、カルフォルニアの広い二車線道路を、2XLのTシャツとハーフパンツ姿で、運転する若者が目に浮かんだ。