とうとう、取材する事ができたHさんのランサーエボリューション6TME(トミー・マキネンエディション、通称6TME、またはエボ6.5)を紹介したい。
かれこれ半年以上、撮影の話が上がっていたが、なかなかタイミングが合わず、今回ようやく撮影となった。
HさんのSNSをご存知の方は、食べてばかりの人と思われてるかもしれないが、彼のマシンメイクはランエボ乗りに影響を与えているであろうインフルエンサーでもある。
今回は所有するCP9Aについて、まじめに語ってもらった。
ファーストインプレッション
あくまで主観であるが、“車幅”と“カッコよさ”はイコールではないと考えている。それはUS、EU車も例外ではなく、ようは車格を含めたバランス次第になると思う。
しかし本マシンは、4枚のハコ車に対しての大幅なワイド化にも関わらず、実物を前にすると、まとまって見える。
つまりイレギュラーなカッコ良さを持っていて、何よりそのインパクトは大きかった。
日本に一つのエアロ
“バリスASSOバージョン特注”というエアロは、バリスによるワンオフ物。
「アソさんという人がこのエアロを組んでたんですよ、バリスのデモカーみたいな感じで。それで昔、筑波サーキット走ってたんですけど、その人と同じエアロなんですよ。ただ、特注品でカタログには載ってないんで、これと同じやつ造って下さいってバリスにお願いしたんですよ。このエアロをつけてるのは今じゃ、日本人じゃ私だけかもしれないですね」
海外のSNSを見ていると、何故か同じエアロが見られるらしいが、現在オリジナルは日本に一台だけだそうだ。
同じく、バリスのフロントのアンダーディフューザーと、ソリッドのカナードを含めると一体どれくらい純正のボディサイズからワイド化されているのだろうか?
「純正が1,770mmだったかな。で、今が1,950か60mmくらいだったかな。これ(フロントのディフーザーとカナードのセット)をつけると2m、2,100mmかな。1,810mmのウイングがちょっと小さく見えるんですけどね」
2mは、なかなか聞かない数字である。
効きすぎるウイング
外装は主にバリスでまとめている。フロントアンダーディフューザー、バンパー、ボンネット、フェンダー、トランク。
バリスのエアロは評判が良く、ショップで勧められる事も多いようだ。気になる方は一度チェックしてみると良いかもしれない。
ウイングは、サードGTプロ1,810mm。翼端板はワンオフして大きくしている。ドアミラーはガナドール。
その他、フロントのカナード、それに続くフェンダーリップ(タイヤに空気があたるとリフトするのを回避するパネル。ちなみに86のGRにも装備されているようだ)、サイドのアンダーボードに立てられたサイドスカート(VOLTEXのパネル)、ウイングの翼端板などの“造り物”は群馬のオートハウスソリッドによる。
ここまでのエアロになると、空気抵抗とダウンフォースがクルマの動きを変えるであろう。特に翼端板を大きくしたウイングによる効果は大きいそうだ。
「効きすぎちゃうくらい。ランサーだとアンダー強くなっちゃうので、もう少し短くてもよいかもと思うくらいです」
深リム・ホイール
足元を見てみると、撮影用に履いてくれたという深リムのホイールが目立つ。
フロントは、レイズのTE37V MARK-Ⅱ。サイズは11J-30にタイヤは295/30/18。リアはワークの11.5J-33にタイヤは295/30/18。
「前後バラバラで、ちょっと申し訳ないですけど、予算の関係で。本当はこれと(リア)同じのが前にも履いてたんですけど、ローター大きくしたら入らなくなっちゃったんですよね。なんで、急遽新しく入るホイールを買ったもんですから(笑)ハハハ」
それにしても、このサイズを楽々と飲み込んでいるのは、このボディキットにして成し得るかと思う。リアは4ドアな為、さぞ難しい加工だったであろう。
サーキット走行の際は、曲がりやすさを優先させてオフセットの浅いホイールを履いているそうだ。
「ブレーキはエンドレスで、フロントが6ポッド、リアが4ポッドですね。レーシング6です」
ローターもエンドレスで、外径はフロントが370、リアが332。
RACEFABメンバー
リアバンパーは大胆にカットされ、そこから見えるオレンジ色のメンバーは、ワイド化されたボディもサポートできるRACEFABメンバー。
「メンバーは前後で、RACEFABっていうところの。ニュージーランドのメーカーなんですけど。けっこう、色んな国で出してるみたいで。色は変えられるみたいで、私の知り合いはピンクで頼んでましたね。ピンクはいやらしいね(笑)ハハハ」
エボ6.5は、純正のエキマニからマフラー出口までの取り回しが曲がりくねっている為、出来る限りストレートにとセンター出しになっており、且つ上部にマウントしている。この為、バンパーとトランクのスペア部分のカットを余儀なくされたようだ。
「マフラーはアンリミさんに造ってもらって、メインは90φ、出口はアクティブテールサイレンサーが入るので115φの一般的なやつですね」
車高調についても、同じく横浜にあるアンリミテッドワークスのオーリンズアンリミバージョン車高調にハイパコのバネという組み合わせ。
フロント同様、リアビューもインパクトがありすぎる。
室内
「街乗り仕様!本当は椅子も全部付いてるんですよ!(笑)」と言い張っていったが、実際は、走るのが筑波だけという筑波仕様になっている。
室内はシンプルで、HKSの金プロ、ブーコン、サーキットattackカウンター、デフィーのメーターが並んでいる。街乗り?と主張するだけにドリンクホルダーはついている。
フードのついたメーターパネルは左から排気、油圧、ブースト、ピポッドのシフトタイミングランプ(7,000回転で点灯)。
ハンドルの前に設置されているのは「アペックスのレブスピードメーターです。もう廃盤になった昔のやつなんですけど、回転数と燃圧が表示されるんですよね。あと速度もでるのかな。その3つくらいが画面に出るんです」との事。
後部座席に固定されているフロアバーはレイル製。
「これはレイルの。ダートラ屋さんっていうか競技屋さんですね。けっこう補強パーツ、ランサーとかインプレッサとか出してるんですよ。そこのフロアバーですね」
エンジン概要
さて、見所の多い本マシンであるが、クローム調でまとめられたエンジンルームは、カーショウ用に造り込まれているようで、思わず見入ってしまう。
「ヘッドはほぼほぼ、東名パーツで、腰下はコスワースの2.2Lキット使ってますね」
「ヘッドは東名のカム、ガスケット。あとは東名のソリッドピポッド入れて高回転を頑張ってもらってます。コスワースのキットは廃盤になっちゃったらしいんですけど」
「バルブはナプレック。ちょっとバルブガイドがガタガタで、オイル下がりしてたもんですから、ナプレックにオーバーホール出して、ハイレスポンスキットっていうのにしてもらって。そうするとビッグバルブがついてくるのかな、で、ガイドも打ち直してもらって。返ってきたのに東名パーツを組み付けてもらったって感じですね」
4g63エンジンは、ナプレックにヘッドのオーバーホールを出して、東名パーツを組んだのはソリッド。造り物もそうだが、セッティングなどもソリッドに依頼しているそうだ。
注目ポイント
以下に注目パーツをまとめてみた。
エンジン
東名270度カム、ソリッドピボット、メタルガスケット、カムプーリー、ARP製ヘッドボルト、コスワースの2.2Lキット、ナプレック、ハイレスポンスキット。
ARP製ヘッドボルトは、純正だと伸びる事があるらしく、海外製の強化ヘッドボルトを入れている。
タービン
HKSのGT3037SのタービンKIT。
冷却系
ARCインタークーラー、ラジエター、HKSオイルクーラー。15段のオイルクーラーはフロントバンパーのダクト部分に設置されており、拾い上げるエアーを圧縮して流入できるような構造になっている。
燃料系
デッチワークス320L燃料ポンプ、サードのレギュレーター、インジェクターは800cc、ハイパーチューンのデリバリーパイプ
吸排気
タービンキットのサクション、フロントパイプ、ワンオフのインテークパイプ、ブローオフはターボスマートのレースポート、ハイパーチューン80φスロットル、サージタンク。エアクリは横浜にあるモンスターというショップのK&Nエアクリ。
ラジエターとヘッドの間にあるカバーは、タービンキットについてくるエキマニカバー。エキマニとゲートもHKSで統一している。
駆動系
「元はGSRという街乗り用のミッションなんですけど、RSの競技用のハイクロスミッションにしています。最高速は伸びなくなるんですけど、加速が良くなる感じですかね」
クラッチはEXEDYのカーボンツイン、LSDはクスコ。
オイルキャッチタンク
「1個つけて、あまりにもブローバイが出るんで2個つけて、最後3つ目は、エアクリの下あたりでポリの容器に穴をあけて受けてます(笑)回すと結構出ますね。あと、外国製のピストンはクリアランスが広いみたいで、出やすいのかなって。聞いた話しであれですけど」
タワーバー
マスターシリンダーストッパーがついていて、剛性感のあるタワーバーはオクヤマのカービング。
ヘッドカバー
「ヘッドカバーがメッキで塗装した、黒を混ぜてもらったブラックメッキのヘッドカバー。ただのメッキにしようかと思ったら、それじゃ芸がないからつーんで(笑)一応、光の加減で違うように見えたりします」
エンジンルーム内で、お気に入りを聞くと、ハイパーチューンの、サージ、スロットル、デリバリーパイプと、ヘッドカバーとの事。
純正タービンでは味わえない加速
エンジンのオーバーホールを兼ねて、フルチューンになった訳だが、その際にタービン交換も行っている。
純正からここまでのモディファイとなると、おそらく別物になるかと思うが、どのような感想をもっているのだろうか?
「当然ですが、純正タービンより下のトルクは落ちてしまいましたが…。ただ、4000回転から上は別物ですね。純正タービンでは味わえない加速です」
「ドライバーよりパワーの方が勝っちゃってます。踏める場所なんてサーキット行かないと無いかな?とも思います」
何とも贅沢な悩みだが、踏むところがないというのは、それはそれでリアルな意見だと感じた。
馬力的にはどうなのくらい出てるのか気になる。
「前に測った時は475馬力だったかな。今はもうそこまで出てないと思いますけど、年数経つとと下がっちゃうからね(笑)」
ブーストは常時1.7で固定し走っている。
ランエボの魅力
Hさんは、ランエボを乗り継いでいる生粋のランエボ好き。曰く「どんな路面でも速く楽しく走れて、大人がゆったり4人乗れる車」という魅力が詰まったクルマだという。
ソリッドによる造り物、エンジンルーム、海外製のパーツ、リアビューなど、彼の面白いマシンメイクに少なからず影響を受けているエボ乗りもいるだろう。
「いや、そんな。まぁ、変わったことは確かにしてるかもしれませんけどね。だからといってガチガチのサーキット仕様とかではないので。えー。まぁ、珍しい方ではあるとは思いますけど(笑)」
エボ乗りの方には許していただきたいのだが、“ランエボ乗りは生真面目、カスタムやチューニングには細かい”と耳にした事が何度かある。
しかし、こうした話とは真逆で、彼は適度にアバウトで美食家のお酒のみ。クルマ遊びと人生を楽しんでいる。
「んー、私自身は、ほとんどお店に投げっぱなしですけどね(笑)いじるのも好きってやつですか?ハハハ。いじって好きなように仕上がったクルマで筑波を走ってる感じですかね。楽しみながら走れればね、んー、そんな感じです(笑)ハハハ」
彼のマシンは見応えがあって面白い。そして、安直な意見ではなく“カッコいいランエボ”である。