シルビアと言えば、ドリフトと連想する人が多いかと思うが、今回は全く異なるアプローチの車両を紹介したい。
チューニングカーとGTカー(レーシングカー)は、そもそも別物だが、オーナーのTさんは根っからのGTカー好きで、ストリートカーであるシルビアをGTカーのように造り変えてしまった。その内容がとにかく、とんでもない事になっている。
世界に1つのエアロ
はじめて本マシンに出会った時は、見たことないエアロだなと軽く考えていたが、よくよく見るとトルクス(超低頭ボルト)が打ち込んであって、その頭を入れるスペースが設けられており、“これは普通じゃない”と気がついた。しかもチリが異様に綺麗だ。
聞くと、スーパーGTに出ている車両を手掛けているエアロ屋さんに、お願いして造ってもらった「今のところ世界に一台です」というワンオフ物らしい。
フロントバンパー、アンダーパネル(ドライカーボン)、フェンダー前後、サイドステップ、リアバンパー、リアウイング、ディフューザーがそれにあたる。
ボンネットについては市販のイーストベアーのウェットカーボンに、出処は明かせないないというドライカーボンのダクトを追加。これも世界に一つ。
「スーパーGTのマシンが好きだったので、スーパーGTマシンみたいにやりたい。で、チューニングカーの極み?みたいなカッコ良さ?開口部が大きくて迫力あるというのとは、ちょっと違っていて。機能美を追求しよう。迷った時はレーシングよりにしようっていう事で、ショップと相談をしながら造ってもらいました」
こうしたコンセプトの元、機能美(空力)を追求する設計をしてもらった。
エアロの役割
言わずもがなエアロと言えば、空気抵抗を軽減したり、時に減速時やコーナリングの際にクルマの挙動を安定させる為に、抵抗(ダウンフォース)を増やしたりもする。
機能美を追求するとなれば、強度確保もともない、その取り付け方も変わってくる。
「例えば、バンパーの取り付け方にしても、普通はバンパーにリップをつけると思うんですけど、これはGTカーと一緒で、アンダーパネルをボディ(フレーム)に固定してます。で、その上にバンパーが載っけて留めてるだけです」
とアンダーパネルを叩きながら説明してくれた。
出面に関しては「フロントのリップで100mmくらい伸びてます。フェンダーは前後とも、片側50mmずつです」との事。
ちなみに、エアロ開口部にある牽引フックは、実際にGT500に使われてた代物らしい。
ミラーを見ても、いかにもGTスタイルだ。
「クラフトスクエアっていうメーカーさんで、これもGTとかで使ってるもんで、イメージ似合うかなって思って」
UDシートを使ったリアウイング
どちらかというと小ぶりなリアウイング(アタック車両にしては)だが、その効果は確かな物で通常のトランクに取り付けるのではなく、トランクを貫通させ、フレーム留めにして強度確保を行っている。雨の日は、やはり雨水の進入がある為、動かす事はない。
リアウイングの素材は、ドライカーボンであるが、一部に変わった素材が使われているらしい。
「チューニングの世界だとあんまり使われてないんですけど、UDシートっていって、ようは織ってない繊維のカーボンシートなんです」
空気の通り道
サイドエアパネルから、サイドステップに立てられたパネルを通して、リアに流れていく空気が見て分かるようなデザイン。トータルで計算されているエアロというのが分かりやすいかと思う。
ディフューザー
リアのディフューザーは、面積のほとんどがメッシュネットになっている、これはやはり空力を計算しての事であろうか?
「そうですね、元がストリートカーなので本物のGTカーほどの効果はないんですけども、リアは抵抗をなるべく無くしましょうという事で網になってたりします」
マフラーは、廃盤になったという柿本改のフルチタンマフラーを入れている。
エアロの効果
ここまでエアロ本来の効果を狙ったボディメイクというのは、ストリートであまり見られないかと思うが、その効果はどうなのだろう?はじめて、エアロを装着した感想を聞いてみた。やはり衝撃的だったのだろうか?
「えーと、衝撃というか、はじめてこれで富士に走りに行った時、あるコーナーで、今までよりも20キロくらい速く曲がれるようになりました。エアロだけじゃなくて、もちろんタイヤの幅もあると思うんですけれども」
20キロというと相当な効果のように思えるが、タイム的にはどうなのだろうか?ATTACKをしている方も気になるであろう。
「いや、それでコーナー速くなった分、抵抗(ダウンフォース)が大きいのでストレートがすごい落ちて、タイム的にそんなに伸びなかったんですよ。だから、元々やろうと思ってたのもあったんで、エンジンやろうってやった感じです」
初回はタイムが伸びなかったものの、ある区間でコーナー速度が大幅に上がったのは、やはり体験した事がない驚きだったようだ。ストリートカーであっても、煮詰めれば空力でクルマの特性が大きく変わるのは間違いない。
エンジンルーム
さて、ダウンフォースが大きくなり、モアパワーをという話しだが、エンジンルームを覗かせてもらった。まず目に飛び込んできたのは、上置きの大きなタービン。
「ギャレットさんのTO4Zです。パイピングもワンオフ。TO4Zっていうと国内メーカーさんでもキット出してたんですけれども、それよりも少しサイズが大きくなっています。まぁ、大きい方が風量があってパワーは出るんですけど、大きくなる分、下は捨ててる感じですね」
ギャレットから直接購入した為、国内向けのキットより風量が大きいようだ。当然、エアフロレスのフルコン(東名レイテック)で今後はさらに細かい制御をする為、コンピューターの入れ替えを考えているという。
セッティングについては現在、暫定で「とりあえず走れるように設定している」との事。インジェクターは廃盤になった1,000ccを使っており、こちらは時にかぶり気味になる事がある。Tさんの言葉通り、セッティングが今後の課題なようだ。
S13ヘッドの腰下S15
エンジンは2.2Lにボアアップ、フルバランス取り、フル容積合わせ、インマニ、エキマニもポートもすべて段がないように造ってもらっているという徹底ぶり。これらは、レース屋さんできっちと仕上げてもらったエンジンという。さらにこんな工夫もされている。
「これS13ヘッドなんです。で、腰下S15です。まぁ、ようはこれ造る時に、上の伸びを楽しみたいって事で、S13ヘッドの方がストレートポートで吸気がスムーズに入るもんで、パワーが狙いやすい。S15だと下から入る形になってて、ポートの方も径が拡大しきれないんで、こっちの方が綺麗に通せるって事で。後は、可変バルタイも取っちゃってたんで、だったら尚更S13ヘッドは元々ないんで、それでいいかなって事でやってます」
「点火もS15のダイレクトイグニッションは、けっこうトラブル多かったんでS14のに変えてます」
アフターパーツばかりでなく、純正流用でコストダウンと機能を満たす的確なパーツセレクトは、ノウハウのもったレース屋さんならではのチューニングなのかもしれない。
また、インタークーラーはトラスト。サージタンクはJUNAUTOで、スロットルはナプレック。フューエルレギュレーターはSARD、メーカーを忘れてしまったというデリバリーパイプと、燃料、空気の流れはエンジン出力を欠くことのないようにセットアップされている。
ワイヤータック、FD3Sのファン
エンジンルーム内を見渡すと、完全ではないがワイヤータックになっている。これまでの話しから見せる為だけのエンジンルームを造るような意図はないかと思ったが、知人の影響で配線類は可能な限り隠しているという。
「なるべく隠せる物は隠す。で、セッティング暫定中なので、それに必要な物は、まだまとめてなくて。でも基本は無理ない範囲で隠してもらっている感じです」
KOYOのアルミ2層の後方には電動ファンが設置されているが、おすすめで付けて気に入っている。とにかくよく冷えるらしい。
「これはFDのファンです。付けたばっかりで。元々、発熱量が酷くて夏とかまともに走れなかったんで、今回FDのファンがいいよっていう事で入れてみたんですけど、すごい冷えるようになりました」
ロングライフ狙い
セッティング中という事だが、気になる馬力はどの程度出ているのだろうか?
「ブースト1.5キロで625馬力。これは夏場計測なので冬場測れば、もう少し出ると思います。まぁ、なるべくロングライフになってほしいなって思って、1.5キロで使ってるって感じですね」
「1.8とか2.0キロかければ、800近くはいくんだと思うんですけど、一応」
大きなタービンと、S13ヘッドの腰下S15。これらは製作にあたり、どのような打ち合わせの元、製作が進められたのだろうか?
「そうですね。形はGTカーですけども、面白い乗り味を目指してるんですね。速さがプライオリティの一番じゃないんですよ、気持ち良さだったり。富士とかで上の伸びを楽しみたくて、あえて造ってるので、上の伸びは気持ちいい。そのかわり低速はスカスカなので、乗りづらいです(笑)」
加えて「今のところは、現状を楽しんでいる。下スカスカでも」との事だった。上の伸びを楽しみたいという、狙い通りになっている事は間違いないようだ。