生憎の雨だった。北海道から来てくれるオーナーに心苦しくも、待ち合わせ場所に着いた。
クルマはフェリー、本人は飛行機で来る予定。しばらくして、オーナーの井元さんが到着して挨拶をかわす。
容赦なく降り注ぐ雨ではあるが、CCを見た瞬間“雨の表情”というのだろうか、何となくハッとしてしまった。
バックボーン
井元さんは、ショップS-SYTLEの代表であり、クラフトマンでもある。積極的に各地のイベントに参加して、地元北海道シーンにフィードバックしている伝道者のような存在。
現在は欧州車にドップリだが、過去には国産車でドリフトをしたりクルマ遊びを楽しんでいる。
こうした積極的な活動をする人物には、必ずフォロワーがいることだろう。
「僕が趣味でVWとかAudiいじり始めて。そしたらどんどん仲間が出来てきて、で、カークラブ作ってみたって感じですね」
それがTOPSTYLE。
TOPSTYLEは、メンバー同士の交流も深く、時には一緒に遠征に行くこともあるそうだ。
「そうですね、仲が良いので。去年は富山もそうだし、山梨のフェンダリストとか。夜中の内に走って、山梨で洗車して、朝搬入って感じですね」
こういう話を聞くと、イベントへ行く道中がフラッシュバックして、その楽しさを思い出す事ができる。
「フェンダリストは一番行きたいイベントだったんで、もう遠いとかそれどころじゃなかったです(笑)別に何時間走ってもとかそういう話じゃなかったです。とにかく行きたいって舞い上がってましたね。行こ行こ行こみたいな感じで。今、北海道はフェンダリストやばいですよ。去年、僕ら行ったんですけど色んなクルマがいて、すごい楽しくて。北海道みんなフェンダリスト行きたがってますね」
井元さんの話を聞くと、興味があるイベントになると距離や費用はあまり関係がなく、とにかく現地に出向くそうだ。
北海道のシーン
北海道というと広大な土地にクルマ中心の生活で、そこには多くのカスタムユーザーが眠っているイメージだが、意外に顔見知りが多いらしい。
「やっぱり主要都市でイベントをやるからですかね。そこに集まってくるから、自然と知り合うんですよね。そんな感じで続けてると、いつか出会うというか」
もちろん、印象値であってイベントに来ない人もいるという。ここ最近はカスタムユーザーが増えているそうで、VIPカーが盛り上がっているとの事。
井元さんのように、本土に渡ってクルマを持って行く人も少なくないそうだが、その動機というか遠方まで足を運ぶ理由はあるのだろうか。
「そうですね、自分たちがやってる事を見続けていると、おのずと本土のシーンが見えてくるというか。本土の人達が造ってるクルマを生で見てみたい。どっちかというと。SNSで見れたり知ったりできる時代だと思うんですけど」
「やっぱり、その場所に行って人に会いに行くっていうのも好きなんですよね。行かない人もいると思うんですよ。勿論。でも、人との繋がりじゃないですけど、見たり聞いたり話したりする事で変わる事というか、あっ、そうなんだなって思う事があるんですよね」
行動と結果
「フェリーは、大洗までで行き帰りだいたい6万くらいですね。混む時期とかにもよるんですけど。敦賀でもそんなに変わらないですね、数千円程度かな」
この費用が高いか安いかは人によって異なるのだろう。
「北海道だからどうとかあまりなくて、逆に北海道だからどんどん外に行って。で、僕らがイベントやる時に来ていただけるようになればいいのかなって思いますね」
お店の宣伝をする訳でもなく、行きたいと思える所には多少コストが掛かろうが出向く。勿論、そうした事が好きという理由も大きいだろうが、その行動の結果、刺激やトレンドを肌で感じる事ができるようだ。
「例えば、去年のフェンダリストで、たまたま同じワーゲン乗っている人がいたんですけど。板金屋さんで。マーカーが普段のオレンジな物が黒だったんですよ。でも光ってるんですよ、何だろうと思って。元々SNSで繋がってたんですけど実物見せてもらって、どんな風に光るかって見せてもらって。で、塗装でやってるんだよっていうのを教えていただいたり。あと、履いてるタイヤもそうですけど、組み方とか。あとはクリアランスとか。そういう所ですね」
そこで得た経験やイベントで出会う人というのは、大切な資産とも言えるだろう。フェンダリストでアワードを獲得したゴルフ5もそうだが、井元さんの影響を受けて仲間や次の世代にフィードバックできているそうだ。
「そうですね。今回アップデートかけたメンバーも特注でロールバーを組んだりとか。僕は前回それをやったんで、次のCCでまた色んな事をやってみたっていう感じなんですよね。なんでいい効果じゃないですけど、どんどんそういうのを見て若い子が造ってくれれば活性化になるのかなって思います」
欧州車
最近は本当に国産と輸入車の垣根がなくなってきたと思う。欧州車をカスタムのベース車両として視野に入れている人も増えているだろう。
井元さんの場合は、国産から欧州車にハマったきっかけは何だったのだろうか。
「たまたま買ったAudiのS4のワゴンですね。僕乗りたいクルマって左ハンドルなんですよね。で、サイズが程良くてってなるとドイツ車が出てくるんですよ。S4をUS仕様にした時にこれはいいんじゃないかって。4.2Lで速いし面白かったですね」
「USDMですか?意識というか、僕の中では基本装備みたいなもんです。昔からクルマはUS化してから、さぁどうしようかなみたいな」
USDMに対する解釈は、自然にカッコいいと思った事がUS化であり、そこからクラフトマンの目線でカスタムを楽しんでいる。やってる事はそれの突き詰めであり追求であるようだ。
コーディング
欧州車をカスタムするにあたって逃げられないコーディングだが、どうしているのだろうか?
「全部自分で覚えましたね。最初は全然分からなくて勉強して勉強して繰り返しでした。今はOBDにパソコンつないでやってますね。今だったらそうでもないんですけど、当時は誰もやってなかったんで分からなかったですね」
「ハードなカスタムになると、一つずつ解決していかないと駄目なんですけど、今回のCCはけっこう大変でしたね。ブレーキ踏むとABSが動いちゃったり、そういう弊害が出ちゃって」
エラー内容が多岐に渡ると大変だが、それでも頭を抱えるほど大変というものでもないそうだ。
CC
「アメリカではパサートって言わないんですよ。CCですね。これ、数少ないアメリカの並行なので。3.6LのV6で。4駆じゃないんです、FFなんです(笑)これUS並行しかないと思うんですけど、FFでV6ってなかなかですよね」
3.6LのV6ながらナローボディ。且つFFという組み合わせは面白い。
「狙い通りです。エンジン開けて、えっ、てなるのが面白いんです。速いですよ、VWのR32もそうだったんですけど、それよりパワーありますね。たぶん向こうでは6速のマニュアルもあると思うんですよ」
プレスライン追加
ボディカラーは現行NSXと同じバレンシアレッドパールでオールペン。その際に余計な物もシェイブしている。
「塗った時に、サイドとリアバンパーのモールとサイドウィンカーと埋めて。で、新たにプレスラインを追加して。プレスラインは見た感じどうしても入れざる負えなかったんですよね。サイドもリアもメッキモールが入ってるんですけど、それが嫌で。窓のメッキも全部消してます。ゴルフも嫌で消してましたね」
欧州車や最近の国産車は、メッキパーツがアクセントとなっている事が多い。加工のしやすさか高級感を狙った物かその意図は別として、デザイン上不必要と考える人はブラックアウトする事で、シンプルクリーンな装いを演出する手法だ。
サイドから見るとドアノブ上部にプレスラインがあり、真ん中よりやや下にあたる部分にもプレスラインがある。
この部分は、本来メッキのモールがリアバンパーまで走っているのだが、取り除いてモールが入る為のくぼみを起こしてプレスラインを造った為、剥がして叩いてパテ、板金と大変だったそうだ。
サイドはプレスライン、リアはスムージングで手数を感じさせないメイクアップといえる。
「あとは、フロントガラスの上の部分とリアガラスの下の部分が純正では黒なんですけど、バランスが悪いのでわざと同色に塗り直してます」
リア周りはエンブレムとバンパーのリフレクターもシェイブ。レンズ類は新品交換。
こうした色使い、シェイブなど細かい作業が積み重なるとクルマの印象が変わるという良い例だろう。もちろんセンスが問われる作業だが、井元さんはバランス取りが上手い。
「意識している所ですか?そうですね、とにかくシンプルで綺麗な事です。ゴテゴテつけない、引き算が多いかも知れないですね」
流用
内装の話を聞くと、CCのカスタムについてのコンセプトが見えてくる。
「これが今回の目的の一つでもあって。ゴルフ5ってオプションでレカロシートがあったんですよ。そのレカロを手に入れる為に、レカロが入ってるゴルフ5を一台買ってきてレカロだけ外して売って。で、そのレカロがCCに合うか分からなかったんですけど、シートレール加工するだけで付いて」
ゴルフ5のレカロはベージュのレザーに張替え。座面はあえて純正を残し、アンコ抜きをしてホールド性をアップ。ロゴもエンボスのところを刺繍仕上げにしている。
「クルマ造る時、何か大きいカスタムをする時に新しい業者さんとつながるって独自のテーマがあるんですよ。前のゴルフの時はリバレルをしてたんで、ホイールのリバレル屋さん。今回は張替えってした事がなくて、色々お店を探して張替えしたって感じですね」
ストーリー
「社外感をなるべく出したくなくて、純正なのかな?でもなんか違うなって、そういう雰囲気を出したくて」
「ゴルフは分かりやすい社外バケットにロールバー、足元はHRE。あっ、やってるなーって感じだったんですけど、それから乗り換える上で、じゃあ次どういう事狙っていくのって言ったら、ヤンチャなクルマを乗り換えて大人になっていく。でも、ちゃんと基本は抑えてて、それとはまた違ったカスタムにしていこうって感じで」
「ゴルフと真逆で、例えば今まで2人だったけど、家族ができてやめられないお父さんみたいな感じのストーリーですね」
こうしたコンセプト通り、純正品の流用を上手く使いこなしている。CCのR用のペダルやポルシェのハンドルなどもそうした理由からだろう。
「社外ハンドルを付けたくなくて、いかに純正品を使ってアップデートしていけるかっていうのがやってみたくて。最初はR8、ゴルフ7のハンドルを付けようと思ったんですけど、つまんないなって思って、同じメーカー流れで991ポルシェのハンドルいけないかなって挑戦してみたって感じですね」
室内で社外品らしき物は、DDMチューニングのスロコンくらいだった。
足元
ホイールはWCIの鍛造、JB1コンケーブ。フラットな物が多いな中コンケーブモデルが珍しい。
サイズは[F]18×10.5j+15 [R]18×11j+10。タイヤはFALKEN AZENIS[F][R]225/35-18。
スポークの奥に見えるブレーキはブレンボ。
「ブレンボのGTキットです。これも2セット目です。1セット目はホイールがコンケーブすぎて当たっちゃって買い直しました。同じ4ポットでも小さいサイズのキャリパーにしたんですね。そうすると厚みが変わるので逃げてくれるんです。フェラーリの360とかのサイズだと思います。これはゴルフ5用で、そのまま流用できるんです。足がゴルフ5と同じなので」
CCはゴルフ5やジェッタと共有している部分が多いそうだ。社外パーツが少ないので、パサートをカスタムしようと考えている人には参考になるだろう。
スペーサーレス
井元さんは、スペーサーなしをこだわりの一つとしているようだが、どのようにしてスペーサーなしでフィットするサイズを選んでいるのだろうか?
「このホイールの場合は、同じサイズの違うホイールがあってそれでデータを取りをしてます。オフセットは違うので、スペーサーをかまして調べていくような感じですね」
地道な作業ではあるが、一番確実な方法だろう。
11jインストール
さて、本車両で一番苦労したというリア周りについてなのだが、メーガンのリアコントロールアーム、トーアームにショック調整式ブラケットと、これらはストックフェンダーに11jをインストールする為の対策なのだろうか。
「アームはそうですね、内側が当たっちゃうんですよ」
説明を聞くと、11jを入れるにはキャンバーをつける必要がある。キャンバーをつけるとホイールの内側上部とショックが干渉してしまうので、ナックルを少しずらしてクリアランスを稼いでいる。
こうした足回りの調整は相対的であり、経験と知識が必要となり、mm単位の調整になる。
メンバー着地
ゴルフやCCは共にポークスタイルだが、CCはゴルフと違い足回りの構造から車高を下げていってもナチュラルキャンバーが付かない。
且つ、ストックフェンダーでアーチを上げず、インナーフェンダーも残している。この条件でリムに差し込むのは少し想像すると大変な事が分かる。
しかし、リアのアーチはホイールとの間隔1mm程度。見事な仕上がり。
「どうしてもアーチはストックのままがよかったんですけど、面倒くささ倍増ですね(笑)どこまで行けるのかなと思ったんですけど、何とかなりましたね」
「フロントはそうでもなかったんですけど、これはリアのアーチが低いので難しかったですね。ちなみにフェンダー2回ほど失敗してやり直してます(笑)傷ついたりして。もう塗りたくないって言われました(笑)」
調整方法を聞くと、実に地道な作業だったようだ。そこには失敗もあり、完成した物を見ると美しいが、やはり裏側には大変な苦労があったそうだ。
「ちょっとずつ落として、落としては調整ですね。この状態でフロントメンバー着地してるので、このクルマの限界です。これ以上やるならメンバースライスするしかないんですけど、リアが限界なのでバランス悪くなるかなって思って。造り方はゴルフも同じなんですけど、僕はメンバー着地ですね。まずは限界点見て、どの程度いけるかなって見てから決める感じです」
キャンバーは[F]5° [R]7°程度で、タイヤは40だと落ちきらなかったらしく35にしたそうだ。
エアサスのマネジメントはACCUAIR、バックはAIRLIFT。メンバー着地の為、これ以上は下げられないがエアサス自体の下げ幅には、まだ余裕があるとの事。
美学
井元さんのカスタムは、テーマに忠実で手数を感じさせないシンプルメイク。また、乗り継ぎについてもストーリーを造っていて面白い。
筆者もそうだが、これを読んでいる方も「あれ?これ車種何?パサート?こんな感じだったかな?」といい意味で目に止まったのではないだろうか?。
引き算な手法も、突き詰めていくと洗練されていく芸術のようだ。
しかし、本人は難しい顔をして造っている訳ではなく、クルマ造りやカスタムを通じて出会う人、その経験をとても楽しんでいる。
それを感じたのは、ストックフェンダー縛りという制約の中で、そこにどんな物を詰め込むというのがフェンダリストとしての美学なのか、そこがロマンなのかという深い会話に出てきたパンチライン。
「とにかく部品のないCCに周りから絶対入らないって言われた11jを入れたのも、挑戦する事自体が無駄なこだわりというか(笑)フェンダーはストック派。それはもう、僕のゆずれない美学なんで。で、そこに夢を詰め込むんですよ(笑)ハハハ」