前回の記事で、UPSTARTのコンバージョン方法、ストックパーツの扱い方について紹介したが、本記事では、より深く彼らのマインドやUSDMの楽しみ方について掘り下げていきたいと思う。
全てを伝えるのは難しいかもしれないが、そこから新しい何かを感じ取る方もいるのではないだろうか?
Mazdaspeed Protege(MSP)ルック
「とにかく、このスタイル。向こうの限定車にしたかった」という小西さんのBJ5P後期ファミリアセダンは、徹底的にコンバージョンされていてマニアにはたまらない車両だろう。
「コンセプトは、ファミリアセダンの北米輸出仕様でProtegeセダンのコンバージョンMazdaspeed Protegeルックです」
国内では、Protege仕様にコンバージョンされてるファミリアは、Protege5(ファミリアSワゴン)を含めても10台ぐらいだそうで、情報が少ない中、手探りでUS化に勤しんでいるそうだ。
「Protegeパーツの入手は、国内ではほぼ無理なので、eBayやSNS内の個人売買を利用して個人輸入しています」
と、パーツ自体は安価であるが、シッピングコスト(輸送費)を入れると、そこそこの値段になってしまうとの事。
「国内限定209台で販売されたMazdaspeedファミリアは、北米販売名Mazda Protege MP3と呼ばれるもので、Mazdaspeed Protege(MSP)とは異なります」
「前期中期があり、共にシングルターボ搭載車で、前期は北米市場(アメリカ・カナダ・中米)1750台限定で、MazdaspeedファミリアProtege MP3と外装は同じですが、中期は2750台限定で、リア周りのエアロが変更されています」
知識もマニアの粋を超え、まるで専門家のようである。
中米で造られたレプリカ
彼のパーツDIGには、こんな面白いエピソードがある。
現在付けているリアのリップは中期MSPの物。フロントリップは中期MSP販売時期にUS Mazdaspeedがオプションで販売した。
これを3年あまり探したが手に入らず、それでも諦めきれず世界のProtegeコミュニティを渡り歩き、中米の小さな国でMSPフロントリップのレプリカを造った人にたどり着き譲ってもらったそうだ。
本人もMSPルックのファミリアセダンは国内で見たことがないそうだ。もしかして、同じ仕様を目指してる人の為に、詳細を書きとどめておこう。
■外装
USヘッドライト、テールライト、サイドミラー、リアバンパー、ファミリアSport20フロントバンパー、サイドステップ、Mazdaspeed Protege フロントリップ(レプリカ)、リアリップ(中期)、社外フロントアンダーリップ(Subaru WRX S204用)、Mazdaspeed ファミリア リアウィング、アンテナ左移設、USトランクエンブレム、ライセンスプレートブラケット、サイドモールスムージング、オールペン(マツダ純正色ブルーリフレックスマイカ)
■室内
USサンバイザー、Mazdaspeed Protege シフトノブ、Mazdaspeedアクセラ、純正シート(運転席・助手席)、Momo raceステアリング、Mazdaspeedホーンボタン、US Pioneer社外デッキ
■その他
Mazdaspeedラジエターキャップ、スポーツサウンドマフラー、US社外ラジエタークーリングパネル、XYZレーシング車高調RSタイプ
面白いのが、ここまで忠実にMSPルックにしているのにもかかわらず、Volkracingのホイール(GT-P)やブリッツのエアクリ、オクヤマのタワーバーなど国産物を入れている所。
スプーン仕様のEJ1シビッククーペ
メンバーの中でも一番ショーカー要素が強い山崎さんのシビッククーペ。取材当日は仕事で来れなかったが、本マシンについて、リーダーの細川さんに色々聞いてみた。
「元々は走ってて、まぁ、もう大人なんで(笑)おとなしく乗ろうみたいな。でも、やっぱり走りっぽいのがいい!みたいな感じだったんですね。僕のが無限なんで、こっちはスプーンみたいな。うちがスプーンと取引あるって縁もあって」
細川さんは仕事でもスプーンと縁があるらしく、この車両製作にも携わっている。
US純正色にDC2インテのVTECエンジン(B18C)をオーバーホールして載せ替え、ワイヤータック、部分的なシェイブ、スポット増しを行っている。
パーツセレクトは、彼らの流儀にそって、あえて純正を使っていたりするが、多くはスプーンのパーツで染められたマシンだ。
外装はSPOONリップ、ミラー、マフラー、ウイング。室内は、サイトウロールケージに、SPOONのバケット。
このSPOONのフルバケは、素材が凝っており無垢な感じが新鮮だった。ちなみに、外装だけでなく室内も塗り直しているらしい。
足元はSPOONのホイール(SW388)やキャリパーなど、トータルで見るとSPOONのデモカーのようになっている。
自走は可能だが、保存を優先している為、ここぞという時以外は大切に保管されているそうだ。
近年、カスタムシーンでは、車高を下げないとカッコよくないという風潮があるのかもしれないが、彼らのマシンを見て言い切れるだろうか?
今一度、大切な事を考えてみるのも悪くないだろう。
彼らのスタンスとルーツ
UPSTARTのクルマを見ていると、改めてストックの良さを知る事ができるが、そのセレクトにはコンセプトだったり、センスが問われるのは確かだろう。
撮影からインタビューに戻り、細川さんに再び質問を投げかけてみた。
USDMといってもストックからハードカスタム、チューニングと様々だが、そのあたりはどう考えているのだろうか?
「オレの場合は、どちらかと言うとノーマルが一番いいと思ってて、クラッチ入れるならノーマル入れて長く乗ろうよってスタンス。純正があればそれでいいし。なければ使わない。灰皿も純正以外に置くじゃないですか?こういう丸いのとか。それは駄目で、なければ吸わないとか(笑)」
「だから、USDMって言っても全然違うよね。うちは、歴史や背景があってジャンルが生まれた訳だから、先駆者への敬意もあるし、それを外れて、今風だから、これでいいんだよって言うのは、うちの場合はですけど、ちょっとできないかなっていうのはあるかもしれませんね」
今風というとUSDMシーンにも、変化はあるのだろうか?
「そうですね、元々はローライダーが排気量が大きいクルマを維持するの大変だから、セカンドカーを買おうよってところから始まった訳じゃないですか。で、ホンダのコンパクトはそこそこ走るし、燃費もいいし、楽しいしスポコンも流行ってたんで、そこからUSDMが出てきて」
「はじまりは足車だったんですね。で、足車だけど、やっぱアメリカはローライダーが好きだから、US仕様にしようよ、セカンドカーでもっていう所で。その後、アメ車を降りて、それ一本になったって人が増えて。結果、そういうジャンルができた。だから何だろ、そういうのを知らない人が多いのかもしれませんね。やっぱり、そういう始まりを拾っていった上でやらないと、ただの薄っぺらいマネ事になっちゃうかも」
彼らは他者の考えやスタイルを認めながらも、USDMの歴史をなぞった上で、自分達の場合こうだと明確な答えを出している。もちろん、それが正しいとかそういう話ではないと分かった上で。
「うち、マフラーうるさいのNGですしね。ただ、まぁ、オレもへんな時期もありましたけど、すぐやめましたね(笑)」
UPSTART流クルマ造り
「本当にクリーンな状態のシビックがあったら、まずUS化が前提。でも、それだけだとアメリカから見ると、ノーマル車じゃないですか?日本にいるから日本で出来るっていうのは、日本のパーツをそれにくっつける。不必要に小物で雰囲気出す演出はあまりいらないかな」
USDMとはいえ、日本に住んでいるからには、そこに日本のアイデンティティが入ってしかりという訳だが、それを表現するにはUSDMの歴史やシーンを理解していないと難しいだろう。
「アメリカのホンダ的なやつらで、よく見ると本当にかっこいいやつって、例えば無限仕様で、超キレイで無駄な物何もついてないですよね。確かにショーカーでバチバチのやつらもいるんですけどね。ストリートで乗ってるやつとか、たまってるやつ見ても、やっぱり、そういうのは際立ちますよね」
「それこそね、シビックに日本の軽のナンバーつけてたりするやつもいるんですよ。そういうのは知らなくてやってるんでしょうね。でも、知ってるやつらは、ちゃんと分かってて5ナンバーつけてたりするんです。わざわざスプーンだから95番とか希望ナンバーをとったりだとか。だから、向こうもカッコいいやつらも、そうじゃないやつらもいるんですよね」
では、UPSTARTのように、より深くシーンを知るにはどういう経路で情報をキャッチするのだろうか?
「うちは、だぶん、最先端の事はやってないんで、とくに取り入れる必要もなく、逆に過去を引っくり返すだけですね」
それは90年代後半から流行ったような、当時のカスタムブームあたりだろうか?
「そうそう、まさに。スポコン後くらいの。だから、ホイールにしても、基本的には新しいものは興味はないし。まぁ、仕事として見ることはあるんですけどね」
「エアロくっつけたいってなった時に、市販品を買っちゃうと、それ相応な感じになるじゃないですか?だったら手に入らない物をムキになって買って。岩渕のインテのバンパーいくらだっけ?15万?サイドステップでいくら?15万?ハネでも15万?たった3点で、その値段。ヘッドライトいくら?8万?(笑)でも、その結果、見栄えは違いますよね」
「30万もらってさ、新品だったら、これって決まったら買えちゃうけど。オレらね、30万の無限のホイール買おうと思っても、どこにあんの?って話からなんで。金あっても解決しないんだから。で、出てきた時に金が無いっていう(笑)」
こんな会話のリレーを、ファミリアの小西さんが締めくくる。
「オレの考えは、ストックが神だから。ストック仕様にしてる日本車が神だっていう。うん。ただ、社外に逃げられない難しさがあるよね」
USDMの楽しみ方
主観であるがUSDMというと、カスタム、チューニング、設定等の知識、ライフスタイルとその楽しみ方は多岐に渡るが、JP、USカルチャーの黄金期、ゴールデンエイジまでさかのぼると、当時物を手に入れるコレクター的要素も評価されるように思う。
「そうですね、これに10万使ったぞみたいな。それの自己満ですよね。でも、それ一点だけだとやっぱり弱いんですけど、それが積み重なっていくと、まとまったクルマになってくるんですよ。トータルバランスですよね」
「それを知らない人が見て、ノーマルじゃんって言ってくれるのは、褒め言葉として取ってるんです(笑)分からないでしょうし。だけど、センスがある人はすぐに気付くんですよ。まぁ色でも、ネジひとつでもそうですよ」
一般人には、USDMとフェイクとの違いが分かりにくいかもしれない。そのボーダーラインはどこにあるのだろうか?
「超アバウトにいうと、北米設定があればいいんじゃないですかね。だから、左ハンドルなクルマでもUSDMですよね?でもアメリカから見ると、ただの純正に見えちゃう。それじゃUSDMで言うとつまんないし。オレだったら並行車の左ハンドルがあったら、全部日本仕様にしますね。それで普通にしれっと乗って。そしたら海外から見ても、どっちなのか分からないですよね」