7月16日(日) に開催される志賀高原ツーリングオフ2017を主催するclub EVO & Racing Team TRICKの代表、たけちゃんご夫婦とお会いした。
たけちゃんは、本庄サーキットで走行会を開催したり、志賀高原でのツーリングを開催したり、シーンを盛り上げてくれるアクティブな人物。ストリートシックにも積極的にコンタクトをいただき、急遽撮影をする事になった。
たけちゃんの2代目ランサーエボリューション(CE9A)はランエボの中でも曲がらないと聞く初期型の車両。しかし、この車両にはウィークポイントを克服する工夫が施されており、面白いカスタムメイクが詰まっている。
ブーストアップ仕様の追求
「エボ5から純正ブレンボが採用されたってのもあって、それ以降のエボはやっぱり不動の人気ですけど。それ以前は曲がらない、止まらない、ピストン棚落ちとの戦いですね」
タイムアタック、グリップマシンの本車両。やはり、それらは障害になるのであろうか?ボンネットを開けてコンセプトについて説明していただいた。
「ブーストアップで、ボアアップ、タービンを交換しないで、どこまでいけるかにこだわっています。山道を楽しく走れる仕様。長野に住んでるので、冬も夏も両方乗れないとダメなんです」
ノーマルタービンで400馬力!?
結論から先に言ってしまうが、なんとこの車両、ノーマルタービンで400馬力を出してしまっている。決して新しくない車両で、耐久性も含めて実現可能なのであろうか?マシンチェックを続けたい。
エンジンルームを覗くと、気になったのは地元のショップ、オートプロデュースBOSSのエキマニ。
「似た形状のエキマニと比べても、はるかに吹け上がりとかブーストのかかり方とかしっかりしてるなという印象です。完全等長で、長さだけでなく内部容量も、一本一本入る水の容量で測られて作られたみたいなので、長く使いたい良い物ですね。廃盤というか、前に問い合わせて聞いてみたんですけど、震災の時に工場の型が流れちゃって、今は作れないみたいです」
ラジエターは海外製の商品で「この型になると国内はパーツが品薄で、海外の方がパーツが豊富」との事。
バンパーのダクトに当たる部分には、所狭しとコアが並んでいる。
「この型とにかくパワステフルード吹くんで、サーキット走っちゃうと、すぐタンクから吹いちゃうんで、パワステクーラーとオイルクーラーのコアを入れてるんですよ。汎用品のオイルクーラーを流用して、配管は自分で作ってって感じで」
長野特有の事情
燃料系はサードのレギュレーター「ブースト高い分、ポンプ変えて、ハーネスとか強化して燃圧は高めにしてます。純正レギュレーターとか、ちょっとした調整式のレギュレーターでは追いつかないんですよ」
インジェクターは純正流用の容量アップ、550cc「この型の純正って510ccなんですよ、それだとインジェクターの開弁率が100というか正直、100超えちゃうんです。550ccでもギリギリなんですけど」
「あとはハイチューンされる方だと、みなさんエアフロを取られると思うんですけど、あえてエアフロ残しにしてます。長野ってちょっと山登ったりすると、標高の違いっていうのが普通に生活してても出るんで、正直言うとエアフロが補正してくれたほうが車としては具合がいいので。地域性といいますか。エアフロレス車で、去年オフ会の方に参加していただいた方で、山登ってアイドル不調になるクルマがチラホラと(笑)」
なるほど、標高の違いで燃調に影響が出るというのは、都内に住んでいるとなかなか聞かない。もちろん長野と言っても広いので、地域によるであろうが、雪、高低差といった要素を加味しないといけない場所もあるようだ。
高いブースト圧を維持するため
「コンピューターは純正の書き換えです。ブーストは、正直、通常のチューニングだとかけてはいけない値までかけてます。タービン変えてないのに、何でインタークーラーがデカイのって聞かれてるんですけど、もう、ブーストをそれだけ上げている分、吸気は温度下げてやらないといけないという事で。それはセッティングいただいたショップさんの考えでして。今現在はノーマルタービンでブースト1.8で400馬力なんですよ。ノーマルですと、純正状態でブースト1.0から1.1はかかるとは言われてるんですけど、その状態で280馬力届かないくらいなんです」
「耐久性をあげてって事で、ピストンはエボの後期型を流用して、高いブースト値にも耐えるようになっています。あと圧縮比下げる為にメタルガスケット入れたりして、ちょっと圧縮比下げてとかってやってる程度で、エンジンの内部には根本的に手を入れない仕様にしています」
エンジンに関しては、絶大な信頼を置いている奈良のカンサイサービスを利用している。遠方ではあるが、新幹線を使って車を出しているそうだ。
「うちのオヤジもまだ現役で走ってまして、エボ3乗ってるんですけど、そっちは新車で買ってからカンサイさんにお世話になってまして。嫁さんがエボ6乗ってて、弟がエボ5乗ってるんですよ(笑)エボ一家なんです」
できる限りDIYにこだわる
たけちゃんは、自分で出来る範囲の作業はDIYにこだわる。それは経費削減の意味もあるが、パーツの少ない現状と、自分の納得できる仕様を追求する為でもある。
例えば、インタークーラーのパイピング類の位置出しをし、溶接だけ依頼。バンパー開口部に収まるギリギリのコアを探してきて容量アップをしたり、アンダーパネルをフレームに直付けさせるようにステーなども作ってしまう。
「CADで設計図を自分で書いてます。実はわたし、普段は農家なんですけど、ご近所の農機具屋さんに、その後の作業をやっていただいてるんですよ。例えばアンダーパネル作った時も、CADのデータを持って行って、この材質の板をこのデータで切ってくださいって。農機具屋さんなのにやってくれるんですよ(笑)」
足元を見てみる
曲がらないとされる車に馬力アップ。セオリーで考えると余計に曲がらなくなってしまうように思うが、どのような工夫がされているのであろうか?
ホイールはアドバンRS。テーマカラーであるブラック&ホワイトに合わせて自家塗装。サイズは9.5J+15、17インチの通し「古い車に、その当時に出ていなかったサイズのホイールって、突っ込んでみるとバランス悪かったりするんですよ」と、トータルバランスを考慮されている。
タイヤはディレッツァz2のスタースペック。サイズは245/40/17の通し「255を履いて本庄サーキットでアタックしてたんですけど、年式的に駆動系への負担が大きすぎて、この型の駆動系の強化品ってなかなかなくて。ショップに相談したところ、転がり抵抗をを抑えといたほうが良いよとの事で245に下げました」
アームは海外製だと書類がない為、純正アームを一部ピロ化。キャンバーはフロント3度、リア1.5度になっている。
「リアブレーキって、シルビアとかと同じで片持ちキャリパーのワイヤー式なんですけど、それを後期型エボの、エボ5のリアのブレーキ周りをごっそり移植しまして、キャリパーをブレンボ化。サイドブレーキもインナードラム化して、構造変更も含めて車検を機にリフレッシュしました」
キャリパーはブレンボだが、プロジェクトμのカラーリングが好きでわざわざ塗り替えたらしい。ゆくゆくはプロジェクトμに変更したいが、今のところブレンボに不満はないとの事。
ちなみに、エボ乗りの方が話す“後期型”というのはエボシリーズを通して前期、後期と表現するようだ。
克服
車高調はZEAL FUNCTION「この型はリアの動きが極端に悪いんですよ。で、フロントはエボ7以降でタイムを出されてる方から意見を聞いて、似たようなセッティングを出してるんですけど、リアは柔らかめにふって、少しでもストロークを稼ごうという事で、フロントのバネレート14キロに対してリア10キロと差をつけて、ショックの減衰もそれに合わせて変えています」
ブレーキをはじめ、車高調などのセッティング見直しを図った経緯は、お世話になっているショップからの助言があったそうだ。
「曲がらない車を無理やり曲げるんだったら、速度を思いっきり落として、曲がりこんでから加速するストップ・アンド・ゴーを早くできるような走り方にスタイルを変えたほうがいいぞって事で。そこからちょこちょこ仕様を変えていって、今年の春シーズンは今までのサーキットで全部ベストを更新しました」
加えて「意識的にもまだ伸びしろはある」との事。
お下がりの法則
外装はVOLTEX製品のカナード、ディフューザー、ウイングを加工して取付。その他、社外ミラー、リアのバーフェン以外はDIYにて製作。VOLTEXのリアウイングはデザインも好きだが、車検対応という点が気に入っているらしい。翼端板とボディが結ばれている関係上、純正ウイングと同じ扱いになるようだ。
室内は14点式のロールバーにブリッドが2脚。リアのドアはFRPになっている。軽すぎて締りが悪いと嘆いていたが、マフラー(一本物でフルチタン)と同様、横浜にあったプロショップ飯田の商品で、今は手に入らない貴重なアイテムだ。ちなみに2名乗車、3ナンバー公認取得済みとの事。
ロールバーに設置されたブーコンはEVC5、その上にはAirmoni。ハンドル前にはDefiのデイスプレイが置かれている。
「今見たいデータはアナログメーターで見て、ディスプレイにはピークとか常にでてくれるんで、タイムアタック時はピークと現在の数値が把握できていいですね」との事。
たけちゃんの地元には“お下がりの法則”というものがあり、先輩から後輩へパーツを引き継ぐ法則なるものがあるようだ。バケットもお下がりの法則により手に入れた。
アタックに役立つアイテム
室内にあったAirmoniが面白かった。タイムアタックでなくともタイヤを引っ張っていて、常にエアーチェックをする人はチェックしたいアイテム。面倒なエアーチェックから開放されるかも知れない。
「アタックのタイミングが分かるように、タイヤの内圧と温度が分かるのでAirmoniを付けています。タイヤ一本一本の圧と内部温度が分かるんで、わたし、けっこう好きでこれ付けてます。センサーはエアバルブのところについてて、ボタン電池入ってるんですけど、1年に一回くらい交換でいけますね」
不完全な魅力
ここまで来るとランエボでも新しい型に買い換えれば良いではと考える方もいるだろう。しかし“不完全な魅力”はあるもので、完成された物が良いとは限らない。難しいとされる古いマシンを乗り続けている理由について聞いてみた。
「すっごい単純な事なんですけど、新しいとか仕上がってるとか、速い車で速いのって当たり前じゃないですか?よく本庄サーキット走ってるんですけど、お互いに本当に良きライバルって言い合ってるお仲間さんが、ガチガチにいじった34のGTR乗られてるんですけど、火花が飛ぶんじゃなくて、すごく仲良くさせていただいてて。お互い条件の違うところで競り合おうねって言ってて。そういうところがやっぱり面白いですね」
クルマよりも人との繋がり
たけちゃんは自身が開催するオフ会や走行会だけでなく、各地で開催されるオフ会やイベントに積極的に顔を出して多くの人と交流を深めている。こうした活動は、走行会も一緒に走るという奥さんの理解や協力があっての事かもしれない。
取材日、たけちゃんが取材を受けるというだけで、深夜にもかかわらずスタッフや仲間が集まってくれた。その様子を見ていると年齢層、職種、性別を超えて楽しそうだ。
また、車種はエボとインプであったが、サーキット仕様やスタンス系などクルマに対する思考は様々だった。
ここ数年は定期で走行会やオフ会などを行っているという。主催といえば会場探しから連絡事項、告知など苦労があるかと思うが、コンスタントに活動できる原動力とは、どういったものなのだろうか?
「オフ会とかイベントやった後の達成感と、あと、みんなクルマで繋がって集まった仲間なのにも関わらず、お酒の席が多かったりするんですよ、どっちかって言うとクルマより人の繋がりを大事にしてますね。だから、家庭の都合でエボとかインプ降りちゃったって人でも、ずーと仲良くお酒の席一緒にさせてもらったりしてます」