団地組。準メンバーも含めて20数台からなるチームである。
以前、リーダーのTさんとは某所でお会いした事があるが、今回はメンバーが住む栃木まで足を延ばした。
雨音と会話
突然スコールのような雨にあいながらも、メンバーの所有する作業場に着いた。
周辺には民家がなく、少し寂れた建物が並ぶ場所に、シルビア、アリスト、マークⅡなどが置かれていた。この“いかにも”という雰囲気が心地よい。作業場には自分達で建てたという休憩場所があり、そこに集まるメンバーを見ていると、まるで80年台の邦画を見ているようだった。
彼らはここで整備や溶接、小物の塗装などをやっている。団地組のステージは特にここと決まっているわけではない。土地柄、冬にはサーキットへ行くかクルマを造ったりしている。
五月雨の中、雨が上がるまでしばらく話を聞かせてもらった。
クルマつながりであるが、それ以前に友達であり仲間
彼らは、とあるスポットを中心に出会って集まったチームで、団地組の大きなデカールを貼っているのは、ドリフトをするメンバーだけらしい。基本的にはクルマつながりであるが、友達としても仲がよく飲み会や、忘年会、バーベキューをするなど結束が固いようだ。
「基本ひま。基本ひまなんで、夜、突発的に今日集合という連絡をすると誰からも返信ないんですけど、たまり場に行ってみると、みんな集まってるみたいな」「誘うと、みんな仕事でも終わってから遊びに来てくれる。平日は、明日仕事だからなって12時、13時頃に帰るような感じです」
チームに入りたいという人もいるが、基本的には「兄弟とか仲が良くない限り難しい」そうだ。こう書くと“サグな集まり”かと思われそうだが、実際には気兼ねなく心を許せる仲間であり、お互いを理解できる間柄を願っているように思う。そうでなければ、頻繁に集まったり遊んだりするのは難しいのかもしれない。
ミサイルは走りの証。走ることを信条としたチーム
雑談をしているうちに、雨が上がったので他のメンバーがいる場所まで向かった。彼らのマシンは基本的に“走りの証、戦歴”というか、体裁にこだわりがなくいわゆるミサイルな車両が多い。とにかく走ることを信条としている。
例えば、リーダーであるTさんのSR20DETは「GReddyのインタークーラー、レーシングギア銅3層ラジエター、550ccのインジェクター、燃料ポンプ、R35エアフロ、社外マニ、PE1420タービンのセットで320馬力くらいです」とチューニングもそこそこに、それ以外は走る費用に回している様子。
こんな事も言っていた「昔のスタイルが好きなんですよ、独特なセンスというか。当時物のパーツとかほしい」
この日、来れなかったメンバーもいるが、メンバーによってはスタンス系が好きだったり、ナンバーのないサイクルフェンダーな車両を所有していたり、個人の趣味は尊重しているようだ。
彼らのルール
彼らは、その風貌から誤解されがちだが、どちらかと言うと礼儀正しくパブリックなコメントもできる。
時には揉め事もあるが、決して暴力的でない。
その根底には掟ではないが、彼らなりのルールがある。どこに行っても自走が前提なので安全マージンは常に取っていて、頭のどこかに常に帰れるように考えて行動していたり、自分たちが集る場所は守りたい、他人に迷惑をかけないという理由から、ゴミ拾いをしたりもする。今年はチーム全員でゴミ拾いを計画しているそうだ。
こんな彼らだからこそ、自分たちが敷いたルールは大切にしているし、地元スポットにあるローカルルールも守り続けている。
「ストリートは知らない人と出会えて、妙な連携が生まれたりして面白いです。自由な感じがいい。薄明かりのヘッドライトがたまらない」
メンバーとの出会い
意外にもリーダーであるTさんは、後から加わったメンバーで、その馴れ初めは印象的だったようだ。
Tさんは、地元の同級生と夜な夜な徘徊してる際に、偶然に某スポットにたどり着き、そこでドリフトを見てしまった。
「仲間がほしかったんで、しばらく様子見てたんですけど。これは運命だ。友達になるしかねぇ」と周辺にたまっていた、それっぽい車の後をつけていった。それが始まりらしい。
メンバーからは「最初逃げたっす、一般車で追いかけてくるんで。何だよこいつって。けっこう遠いコンビニまで追いかけてきたんです」と笑い声。
その日はあきらめたが、次の日も出会った場所に向かい、再びメンバー達を追いかけたそうだ「今日こそ逃さねえぞって、また追いかけて。最初怖かったんですけど。すみません、ギャラリーしにきたんですけどって声かけたんです」
こうして団地組は結成された。
これからも続く、それぞれの絆
リーダーにメンバーについて聞いてみた。
「困ったこと?連絡しても返信をくれないことですかね!!感謝してることは、このメンツがいなければ絶対ドリフトしてない。普通のクルマ買って満足してたと思うんですよ」「地元にはクルマ好きがいなくて、洋服見に行ったり、カラオケとかボーリング行ったり。オレ、そういうのつまんないんですよ」
「でもリーダーって言っても、オレが救ったって訳じゃないし。チームの事すべてやってるわけではないんですよ。みんな色々役割持ってくれて。それぞれ動いてくれるんで、それはありがたいですね」
10代、20代と言えば、社会のレールに沿って人生を送る人と、世の中に何かを求め、生き甲斐や自分にできる事を探す人に分かれ道ができる。彼の選択は後者だったのかもしれない。
限られた時間の中で、どのくらい彼らを理解できるか戸惑いもあったが、少しの間だけ時間を共にして、メンバー間“それぞれの絆”を感じた。社会に出ると、その長い時間の中で次第にこのような熱い想いや感覚は薄れていってしまう。だが、彼らは決して忘れていない。大切な事だ。
大人にはストリートを見ることができない。
「例えば、走り屋やめても、この関係は続けていきたいよね。一応クルマつながりですけど、その前に友達っつーのがあって。結婚式あったら、真っ先にかけつけるよね」