「昨日、群馬ラリーで当てちゃったんですよ」と淡々と語る島さんに、その様子を写真で見せてもらったところ、通常なら病院行きだと思われるクラッシュしたインプレッサの様子を見て唖然としてしまった。
島さんはラリーストであり、ドリフトドライバーという異色の経歴の持ち主。
インタビュー内容から「スピードへの恐怖心をコントロールできる人だな」と何となく頭に浮かんでいた。
小さな頃からドライバーとしての夢を追いかける
カートから始まってサーキットカート、シビックの耐久レース、ドリフトそしてラリーと様々な経歴を持つ彼は、幼少の頃からレーシングドライバーになりたいと言い続けてきた。
漠然とした夢に道しるべを示すことになったのが「学ドリ」。たまたま見学に来ていたラリーチームの関係者からスカウトされてラリーの世界の扉を開くことになった。
ドリフトとラリーの違い
「基本的な車の動かし方は似てますよ、全然違う競技だけど。思っていたよりかけ離れていないですね。ラリーの技術もドリフトに応用できるし、逆にドリフトの技術もラリーに応用できる。
例えば、コーナーに対してアプローチして行くときに、ラリーではコーナー進入時にイン側に対して、タイヤの1トレッド分開けて侵入するんですけど、出口へ向けてアクセルを多めに開けて流していくのがドリフトで、タイヤを食わせて前に進めるのがラリーの走りですね。
ドリフトって走法で比較すると、ラリーの場合はタイムを出すためのドリフト。いかにアクセルを踏んだまま曲がるためのドリフトなんですよね」
走法や目的に違いはあれど、やはりクルマのコントロールという点においては共通する事が多いようだ。
ラリーストでありドリフトドライバーが造ったクルマ
本来なら、ラリーストとしての島さんで記事を書きたいところであるが、今回は彼の所有するドリフトマシンであるシルビアs14前期にフォーカスしたい。
まずは外装からの紹介。エアロは純正オプションのnavan(ナバーン)のフルエアロに、リアにトラストのリアアンダースポイラーをセット。純ベタなんですね?との問いに「そう思うじゃないですか?でも、日本でおそらくやっている人はいないであろう、前期のサイドステップに後期のサイドステップを加工して上から重ねているんですよ」
なるほど、言われてはじめて気がつくほど自然な仕上がりになっている。純ベタというには言葉足らずなのかもしれない。
ウインカーとサイドマーカーはD-MAX、ヘッドライトのクリスタルレンズはネットで購入したメーカー不明品だが、無機質に見えがちな前期のフロントフェイスのアクセントになっている。
バンパーもメーカー不明のリップを追加してボリューム感を出している。フェンダーはリアフェンダーがチャージスピードの50mmワイド。フロントはパテもほとんど入っていないと言う30mm叩き出し。
フェンダーの端は真っ直ぐ下に落とすのではなく、少し斜めに落とすことによってタイヤを切っても干渉しないようにしている。仮にバンプした時にも直撃を避けられるらしい。
選んだ仕様は、日光サーキットの単走だったら勝負できる仕様
次に足元を見ていきたい。車高調はGPスポーツのGマスター。バネはKTSの150mmでF14kg、R10kg。キャンバーはF7度、R3.5度「キャンバーはフロントの角度の半分が結構好きです」
加えてキャンバーについて何故、この角度にしているか聞いてみた「見た目的なところもありますが、この設定が走って調子良かった。コーナー進入時にハンドルを切ってドリフトのキッカケを作るんですけど、その反応がクイックになる。ただ、その後は食わないんで、あとはアクセルワークとクラッチで尻を出すんですね。だからキッカケさえよければって感じの設定なんです」
「あと、タイヤがF215/35なんですけど、食うタイヤの選択が少ないんですね、なので余計にフロントがひっかかってほしいなと」
リアタイヤは225/35。引っ張っているけど今のところエアー漏れはないとの事。「サーキット走行の際には空気圧をF2.5、R2.0に落として走っているんですけど問題ないですよ。リアは特に進ませる為に落としてますね」
ホイールはグラムライツのコンケイプで18インチ、9.5j+12の通し。デザインも気に入っているが足元が軽いとそれだけで武器になる。
ブレーキパッドは前後プロジェクト・ミュー、フロントは純正プラスアルファのB SPEC、リアはサイドがよく効くようにD1 specをチョイス。
ショップ、SBコーポレーションの存在
彼は学生の頃からトータルチューニングカーショップのSBコーポレーションによくお世話になっている。ドリフトをはじめた時も「ドリフトしたいんですけど」と唐突なお願いしたところ、色んな相談に乗ってくれたそうだ。
フロントのロアアーム(30mm延長)、純正加工ナックル(車高を下げてキャンバーをつける事を前提としているナックル)、リアメンバー加工はすべてSBコーポレーションにお願いしている。その他タイロッドはイケヤ、D-max(タイロッドオフセットアダプター)などフルアーム化している。
シャコタン対策としてはリアメンバーの20mm上げに加えて、スキッドレーシングのトーコンアームとZENKYのアッパーアームが干渉ポイントを逃してくれている。
走りにおいて基本的な足回りを優先した
駆動系は、KTS強化クラッチとフライホイール、デフはニスモの2wayをシム増しして、マウントをリジット化。給排気系は最初からついてたエアクリと不明フロントパイプとマフラー。エンジンもタービンもノーマルで、HKSのEVC-Sでブースト0.85と控えめ。
もちろんパワーもほしいし、クルマは発展途上であるが何よりも足回りを優先した。これは、クルマの動きを制御する大切さを知っているラリーストらしい選択とも言える。
「足元さえしっかりやっていれば、日光サーキットの単走だったら勝負できるかなと」
珍しいフルバケはJURAN製
室内を覗くと珍しいフルバケが入っていた。どこの製品かと聞くと「このフルバケはTANIDAって言って、JURAN(パイピングなどで有名な)ですね」JURANは株式会社タニダが立ち上げたブランドで、このフルバケについては会社名が入っている珍しい一品だ。ホールド製もかなり良いとの事。
ロールバーはオクヤマの10点式で、足の動きがガラリと変わってしまったという程、剛性アップになった。
原点であり世界を広げてくれたs14シルビア
「群馬ラリーシリーズでは車に乗れていれば、走り切った時はだいたい、表彰台に登らせてもらっています。走り切れなかった時は車壊しちゃってます(笑)あと、ドリフトあがりなので、ギャラリーがいるとどうしてもサイド引いて手前から横向けてしまいますね」冗談を交えつつも、これまでの実績から島さんは全日本ラリーに出場するそうだ。
2年目を迎えて走りは熟成してきましたか?との問いに「んーと、そうですね、まだまだ課題は多いんですけど、今は感覚で走ってるところがあって、とりあえず何となくタイムが出ているのでいいんですけど、これからもう一つステップあがるとなると理論と経験が必要で、色々足りないかなって事で。チームの皆さんに支えられて教わりつつやっています」
彼は謙虚な姿勢と自身の状況やその背景を説明する事に非常に長けている。筆者は仕事柄、色々なプロフェッショナルな方とお会いするが、技術だけでなくこうした姿勢やトークも非常に大事な要素だと考えている。
最後にシルビアとドリフト、そしてラリーについて聞いてみた。
「ドリフトは本当にクルマの動きの勉強になりますね、ドリフトがあったから縁があって、今ラリーも出来ているし、これ(s14)があったから、色々道が広がって。たまたま知り合いから買って、気まぐれでドリフトを始めたんですけど、運命の出会いですね。だから自分的には捨てられなくて、ボロボロだけど治して乗っていきたいですね」
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