日本では年齢や世間体を気にして、趣味を諦めないといけないという全くもって馬鹿馬鹿しい言い回しや考え方がある。
冷静に考えれば、趣味を通して得た知識、スキル、ネットワーク、仲間など、そんな事の為に捨てるなんて自虐的行為だ。
“いい年なんだから落ち着いて”なんて言葉は、誰かが得をする為の刷り込みでしかない。と、主観を述べよう。
そんな風習に対する疑念を払拭してくれるようなトミオカさんと、トミオカさんのたたかうくるまをチェックしたいと思う。
25年
トミオカさんは走り続けて25年のキャリアを持ち、お盆に開催されるイベント“盆ドリ”の主催をはじめ、現在もドリフトシーンを盛り上げようと地元長野を中心にアクティブに活動している。
「今年の盆ドリはスポーツランド山梨になります。今までは間瀬サーキットでやってましたね。盆ドリの他にも、駐車場を借りて練習会みたいなのを年2、3回くらいやってます。妙高杉ノ原駐車場なんですが、けっこう大きい駐車場ですよ。場所は長野からすごく近い新潟です」
走行会のオーガナイズの他にも、自身で走行会に参加したり、時には遠方に足を運んでいる。
こうした地道な活動あってかイベント主催時には、地元長野を中心にビギナーからエキスパートまで集まり、ドリフトを楽しんでいるという。
「ドリフトが盛り上がればいいなって思ってますね」
自分の行動範囲を超える行為
おそらく、どんな業界でもベテランと言われる熟練者は“守り”に入る事が多いであろう。
トミオカさんから学ぶべき所は、まるでドリフトをやり始めた頃のように楽しんでいる、そのテンションと行動力。
最近では完全アウェーな状態、誰も知らないイベントにも自主的に参加しているそうだ。
自分の行動範囲を超える行為というのは年を重ねる毎に無くなっていく。それは知識を持つことによる弊害であろうか。
どんどん自分の可能性や行動範囲を狭める事になるが、何故かそういう状況に納得してしまうのだろう。
それを大人になったという言葉でまとめるのも結構だが、視点を変えれば行動を起こさない愚か者に落ち着いたとも言える。
「たぶん今は僕だけじゃないですかね、こんな馬鹿な事をやってるのは(笑)みんな大人だし、まともだからあんまりしないですよね。でも、広い範囲で色々知り合いができて、サーキットも行けば誰か知り合いがいるようになりましたね」
「例えば、JZXで速い誰々さんが来るっとかていう噂を聞くと、これは行くしかないみたいな(笑)ハハハ。行くしかないです。大人気ないです。大人気ないオッサンです(笑)でもけっこう面白いですよ。それで行って走って話して、仲良くなったりしてます」
JZXとの出会い
「MSC、D1地方戦、ストリートリーガルあたりですね。ライセンスも持ってましたね」
昔はいわゆる大会系だったらしく、プライベーターながらS15を造り込み、様々な大会に参加していたそうだ。
しかし資金面やノンビリやりたいという気持ちからマイペースな活動に移行する事になり、結婚を機に2ドアから4ドアの100チェイサーに乗り換える事になる。
「最初はあまりイジらないつもりだったんですけど、結果的に乗ってたらだんだんイジりたくなっちゃって、とてもじゃないけどファミリーカーにはならないようなクルマになっちゃいました(笑)ハハハ」
「若い子とかで速い子とかいるじゃないですか?で、追いつかれたり、抜かれたりしたら悔しいなと思って(笑)それで、これはパワー上げるしかないって。ノンビリやれればいいやぐらいだったんですけど、気がついたら結構お金と手間がかかるクルマになってましたね。馬力はある程度手に入れましたけど。測ってないので、だいたいですけどMAXで470くらいですかね」
たたかうくるま
トミオカさんのたたかうくるまを見ていこう。
まずは外装だが、基本的には走る事を念頭に置いている為、必要最低限といった印象。
フェンダーはN-STYLECUSTOMの汎用フェンダー、不明のボンネットにルーフスポイラー。ミラーは本物のガナドール。
全身ボコボコなのは、直してもすぐに当てたり汚してしまう為、割り切って走る事に専念しているという。
TD06-25G
トラストのタービンTD06-25Gは上置きにマウント。サクションパイプとインテークパイプも整備性を重視したレイアウトにしているそうだ。
「もう、ドッカンターボですよ。だけどHKSのカム入れてるので下からも使えるっていう感じですね。カムは264°と256°です。実際はカムのおかげで4300回転くらいからドカンときますね、だから大きいタービン付いてる割にはミニサーキットでも使える、乗りやすいセッティングにはなってます」
TD06-25Gを選んだ理由についてはこう語る。
「上の伸びですかね、加速感というか。高回転の時の車速も違うので。あとは昔からあって、未だに使ってるユーザーも多いので信頼性もあって」
タービンの特性はドッカンながら、カムとパワーFCで扱いやすさも補っており、且つ上の伸びも求めたセッティングになっている。
パワー的には、もう少し狙えるそうだが余力を残して壊さないようにしているそうだ。
エンジンルームを這うシリコンホースは手動の霧吹き。タンクは助手席の後ろにあり、ポリタンクで自作したので恥ずかしいと言っていたが効果は大きいようだ。
走っている最中に100℃くらいで吹くと90℃まで落ち着いてくれる。
足元
「4ドアの特性を消す為にフルピロ、フルリジッド。メーカーにこだわりはないんですけど、とにかくピロになっていれば戦えますね」
トラクションを重視しているであろう足元。車高調はHKSのハイパーマックス、バネは色々な物を試して最近ようやく落ち着いたという。
フロントはアイバッハの18k、リアはテインの6k。
「フロントが硬く感じるかも知れないですけど、ツアラーVの場合だとダブルウィッシュボーンなので、シルビアとかと比べると倍レートになるので。だから18キロだと9キロくらいの計算になるのかな、街乗りからサーキットまでこれでいけます」
ナックルはオリジナルで切れ角については、特にこだわりはないそうだ。
「転がる方向のナックルにしたので、アクセル踏んでないと曲がっていかないって感じですね。最大切れ角はスピンしないって所なので、そんなにこだわりはないです」
ブレーキは純正だと止まらないという理由から、20セルシオのキャリパーとローターを加工して流用。
「ドリフトには不向きって言われてるんですけど、間瀬サーキットとか筑波サーキットみたいにスピードが出る所だと、大きいブレーキじゃないと止まらないんで一応強化しています」
ホイールはノンブランド。外装のヒットした痕跡と同じく、いいホイールを履いてもすぐに割ってしまうそうだ。
「バトルしてるとインカットが多いので、ホイールは消耗品って割り切ってます。サイズは9.5jの+15の18インチの通しです。リアですか?いや、通しなのでリアも同じなはずなんですけど、中華製で…きっと見た目が違うんでしょうね(笑)ハハハ、同じサイズなはずです。タイヤはアクセレラで265の35、18です。サーキット行く時は前後同じサイズです」
割り切り
室内はブリッドのフルバケに助手席はレカロ。あとはパワーFC、EVC、ブースト計とシンプルだ。
トミオカさんのたたかうくるまを見てみると、コンスタントに走り続ける為のやりくりが見えてくる。
マシンのセットアップは不足を補う程度にして、1本でも多く走ることを重視しているようだ。こうした無理をしない、あるいは割り切るという事は案外難しかったりするものだ。
変化
ストリートに根付いた活動を長年してきて、シーンもそうだが人も変わり、世の中もだいぶ変わったという話をしていた。
「今の子達は、昔と違って頭がいいから色んな事をすごく早く吸収して。賢いですよね」
「今はサーキットとか駐車場とか、合法的に走れる所が物凄く身近にあって。昔はサーキットでもドリフト走行ができなかった時代もあって、やっぱりストリートというかイリーガルな印象と隣合わせだったっていうのはありますね」
ドリフトがモータースポーツになり、サーキットもより身近になって喜ばしいという想いと、昔を懐かしむ想いもある。
「昔はあいつには負けねーぞとか結構あったと思うんですけど、今はそういう雰囲気はあまりないですね。自分は未だに闘争心燃やしてますけど(笑)ハハハ。悔しいと練習してますね、未だに」
ベテランといえど未だに練習は怠らないそうだ。
「いやー、なんか、もうちょっと違う事ができるんじゃないかとか、けっこう色々考えながら走ってますよ。あと最近だと、行った事ないサーキット、走った事ないとこに行ってそこで揉まれたりとか。知らない所に一人で行って、周りに誰も知り合いがいない環境で走るっていうのを去年くらいからやり始めてますね」
縛られず流されず
「一時期、自動車業界にいた事があったんですよ。趣味と実益を兼ねるみたいな感じで。そうすると、やっぱり疲れてしまって。でも、今はクルマとは全く無縁の仕事をしてて。だから逆にクルマで走る事がさらに楽しくなったんですよね」
クルマ遊びを楽しむ秘訣は人によって異なるが、トミオカさんの場合こうした事が答えだったようだ。
また懐古主義という訳でもなく、ドリドレなどもよく見ていて「ドリフトしてるクルマはシャコタンでカッコいいは基本だと思いますね」と話していた。
その上で、自分ができる範囲で好きなようにドリフトを楽しんでやるというトミオカさんの姿勢や工夫はあらゆる年齢層に届いてほしいと思う。
「今は楽しく走れればいいんじゃないかっていう所でやってますね。一応もう25年くらいはドリフトしてて、人生の半分くらいドリフトしてますね(笑)長くやる為には、気張らないでやる方がいいんじゃないかなぁって思いますね」
「僕は本当に何にも縛られないでやってきたし、ここまでやり続けてしまったんで、やめるって気持ちが全くなくて、あとはいつまでやれるんだろう?っていう、それだけですね」
大人になったと小さくまとまる必要は何もない。