栃木にはまだまだ面白い男たちがいる。シャコタン☆ブギを連想させるスタイルに、何よりも仲間やつながりを大切にしているチーム、鬼怒川WORK’S。
このご時世、主張したり個性を表現すると何かと横ヤリが入って、“普通”である事が当たり前であるような風潮であるが、彼らはその“普通”から外れる事を臆する事なく、自分たちのスタイルに誇りを持っているし、信念も持ち合わせている。
当時スタイルの追求
鬼怒川WORK’Sの地元は、頭文字Dの舞台にもなった峠の麓で、全員が本家となるエボルツィオーネというチームに所属しており、そこから派生したチームになる。
全員が車関係の仕事に携わっており、メンテナンスなどもお手の物と言った様子。幼馴染、地元の仲間、高校の同級生が集まり、構成メンバーは10数人との事。
メンバーは、最近ドリフトをかじりだしたそうだが、基本的には街道仕様を感じさせる車両が多く、峠全盛期の当時スタイルな感じが好きなそうだ。
はじまり
その硬派なスタイルとは裏腹に、はじまりは「温泉同好会」という何ともギャップを感じさせてくれる話をしてくれた。
「最初はオフシーズン、休日何かすっべって、温泉でもつかりてぇなぁって所から、何かね。はじまっちった」
彼らの地元は、オフシーズンとなると積雪のため身動きが取れない事が多く、本家チームの中でも温泉好きが集まって温泉巡りをするうちに、鬼怒川WORK’Sが結成された。
結成の経緯こそ、そんなはじまりだが、元々仲の良い者同士が集まっただけに結束は固いそうだ。
プライド
ステージに関しては特に決まりがなく、メンバー間によっても多少異なるそうだ「チーム全体としては、どちらかというと走るっていうより、みんな集まって、他愛もない。口を開けばクルマの事ばっかり話してるって感じですね」
所有車両については、パワー重視というより壊すことなくアクセル全開できるような仕様が多い。「ノーマルでも別に楽しいよね。100%引き出せてるかって言われたら、そうでもないかなって」
「エンジンオーバーホールしたり、長く乗れるように。改造っていうより、メンテ。元ある形に戻していくのが先だよね」との事。尚、メンバーによっては完全にサーキット仕様のナンバーなし車両を所有し、耐久レースに出場したりしている。
時代と逆行するスタイルを追求する彼らに、巷で流行っているカスタムについて聞いてみた。
「かっこいいとは思うんすけど、オレらはオレらのスタイルでいいなかなって。生まれる時代間違えたなって思う時ある」と流行りには流されず、自分たちのスタイルにプライドを持っている。車だけでなく、ライフスタイルも。
「金はないけど、入ったら車に使うみたいな。だから金ないんですけどね。まぁ、経済まわしてるって思えばいいんじゃない。使わないと入ってこないしね」
何かあればリーダーの元、一致団結するチーム
温泉巡りやチームでの旅行など、その風貌からは想像もつかないアットホームな彼らだが、リーダーのTさんにチームの事や、リーダーというポジションについて聞いてみた。
「最初、リーダーとか決まってなかったんですけど、地元で有名になってきたので、じゃあオレやるぞって美味しい所取りしました(笑)」
「仲間とのつながりを大切にしているチームかな。事故ったりしたらみんなで助けに行ったり。オレも何回も助けてもらってるし。共通して言えることはクルマ好き」
「オレらは揉め事は基本ない。昔、暴れてたやつをね、静かにさせた事はありましたけど。それはね、自分らの居場所を守るためだったんで。民家の前を通る時はうるさくしない、ゴミを捨てない。人に迷惑かかるからね、最低限そこは気を使わないと」
とメンバー全員が隔たりなく、フラットな関係のように思えるが何かあった時はリーダーの元、一致団結してまとまるチームなようだ。
「何かあったとしたら、そのつもりはありますよ。もちろん」
距離ができてしまったメンバー
「仕事はつらいですね、きつい。だからこそ温泉に逃げたっていうか、そうなんですよね。休みでも疲れててガソリン代ないっつっても、何とかして来る。夜中でも。あいつらがいるからって。仕事でストレスがたまってた時期には、毎週来てました。1時間以上かけて」
仕事の関係で、やむなく地元を離れたメンバーAさんは現在、湘南に住んでいるらしい。それでも、離れていても、仕事の疲れやストレスを忘れるため、遠方から遊びに帰ってきているという。
「みんなで集まってるのSNSとかに上げると、オレいねーってさ、だいたい言うよね」と他のメンバー。
離れていても、つながりを保っていられるというのは、それだけ強い絆なのであろう。すべての人がそうではない。そこに帰る場所があるというのは幸せな事だ。
心優しき男
メンバーのKさんが、AE86をレストアしていると聞き作業場にお邪魔した。彼はスキンヘッドで気合いの入ったスタイルであるが物腰柔らかに、皆でレストアしている話を聞かせてくれた。
現在はドンガラ状態であるが「見た目は普通なんだけど、中身は色々やろうかと。4スロでそこそこ走れる仕様」にしたいとの事。
彼は何故、ハチロクをレストアしているかというと、以前乗っていた車両を2台つぶしてしまったそうだ。市街を走っていたところ、猫が急に飛び出してきて避けるためだったらしい。その前の車両は、道路の真ん中に人が寝ていて、ハンドルを切ったところ、ガードレールに追突してしまったそうだ。
「どうしてやろうかと思ったんですけど、何か、じいちゃんだったんですよね。で、警察呼びましたよ」
と、いずれも他者を救う為に大切なマシンをつぶしている。
シャコタン、リーゼント、そして仲間
強面のリーダーが「心の支えになってる」と少し照れながら話す。この愛すべきメンバーが集まる鬼怒川WORK’S。
本当のカッコ良さ、生き様とは何だろう?お金を稼ぎ、高級車に乗る事?メディアに出ているような無色透明なイケメンになる?大きな会社で役職につくこと?人それぞれ価値観は異なるであろう。
今は地位もお金もないが、少なくとも彼らは腐っちゃいないし、心の中に熱いものを持ち合わせている。そして日々の重圧に負けそうになっても仲間がいて、帰る場所がある。友と歩める人生がある。
人は時間をかけて“家”をつくる。そこには家族がいるのか、仲間がいるのかマチマチだ。そして、それを生涯をかけてつくれない人もいる。
「今あれじゃないですか、車とか若い人あまり興味ないじゃないですか。オレら有名になって、あいつらカッコいいなって、オレも乗ってみようかなってなってくれればいいな。クルマが好きってだけで、こんだけ集まれるんだよってね。あわよくば、シャコタンなクルマが流行ってさ。ゆくゆくは、オレらがオヤジになった頃に、二代目鬼怒川WORK’Sがあったらね、ニヤニヤしちゃうじゃん」