すでにご存知であろうが、走りのベース車と言えば、国産車は年々高騰する傾向にある。代表的な車両でいうとAE86、シルビア、シビックなど100万円超えは珍しくない。しかも程度を考えると購入後、メンテも発生する事を見込んでおかないといけないような状況である。
本日は、そんな国産ベース車に一石を投じる車両を紹介したい。
狙い目のベース車両!?
Yさんが所有するBMW、E36、318isは、1995年式(前期)のFR、1.8L、2ドアクーペのマニュアル車。写真を見てもらうと、ファーストインプレッションは高級感、重量感と敷居の高さを感じるが、中身は走りを意識したクルマになっており、話を伺うと、とても面白いクルマである。
国産と比較する事自体ナンセンスであるとは思うが、あくまでもベース車選択の一つとして見ていただければと思う。
国産にはないスペック
Yさんは、ギャランラムダ、71クレスタ、70スープラなど国産車を乗り継いで、それからBMWを数台乗り継ぎ、現在の車両に至る。現在はFD3Sなども所有しているが、本マシンに関してはサーキット専用マシンとして、モータースポーツを楽しんでいる。
Yさんの走りは過激で、同型のisをサーキットで転がしてしまい潰している。
「これ走行は、まだ3万キロちょっと。5年くらい前に35万で買いました。今は値段ちょっと上がってるみたいですけど、昔はこれ、あげるとかそういうやり取りされてましたよ(笑)」
はじめに、この318isの優れているスペックを並べると、まずは高剛性、ゲトラグのミッション、等長のエキマニ、フロントミッドシップと、純正状態ですでに豪華である。
気になる点をあげるとすれば馬力かもしれない「カタログ値で140馬力、荷物のっけったら120馬力くらいじゃない」との事。
しかし、ひとつひとつのパーツがしっかりしており、オイル交換していれば、ほとんどこわれないんじゃない?と話す。
「ドリフトできる?ボディが重いので、足で調整しちゃうのか、何かしないとですよね。ただ、ボディ剛性高いので、ドリフトしやすいかもしれませんね。サーキット走ってて、流れちゃっても変な動きしないし、あー来るなとか来ちゃうなとか、冷静に対応できるんで、分かりやすいと思いますよ。フロントにガッて荷重かければ、けっこうケツ出ますね」
「たまにタービン突っ込んでる人もいますよ。ただ、どっちかというとハイカムとか、NAのメカチューンやってる人が多いかもですね。自分らがそういう走行会しか行かないかもしれないですけど」
本車両の発売当時は、5対5フロントミッドシップという触れ込みで、当時を知る人は「あの当時は感じたよ。なるほどな、いいねって。よく曲がるなって、国産車に比べたら荷重移動とかしやすかった」と語っていた。
フロントミッドシップという点から見れば、コーナーリングマシンである事は間違いないようだ。オーナーのYさんは、トン切りを目指して軽量化をしているが、現在1160kg程度。それでも、シルビアs15のノーマル状態よりも軽い。
後輪を滑らせるドリフトに関してはどうなのだろうか?機会があれば、そうした企画を考えるのも面白いなと思う。
維持費、カスタム費用は高い?
レアな購入ケースとはいえ、欧州車。国産と比べ、メンテ費やカスタム、チューニング費用は一般庶民が手を出せるのだろうか?
「パーツは高い?そうでもないですよ、国産パーツもネットオークションもあるし、そんなに高くないですよ。7万くらい出せばピロ付の車高調とかも買えるみたいですしね。ただ、ドイツからパーツとか輸入をすると高いですね。でも、最近は国産も台湾製もあるし、昔ほど輸入にお金かからないですしね」
と意外な答えが返ってきた。実際にYさんのカスタムについて、これから紹介したいと思うが、そもそもBMWイコール高級車というイメージは、一方的な固定観念にすぎないのかもしれない。
年式を感じない外装
1995年式というと、当時の国内市場と照らし合わせれば、シルビアs14前期あたりが話題になっていた時期であろうか。現在の状態を比較すると、あくまで主観であるが、同年代選手とは思えない、塗装もしっかりとしている印象。外装について色々聞いてみた。
「基本的に純正です、これは。Mテクニックのリップスポイラーとコーナーリップ。あとカナードは不明品。リアウイングはクスコのアルミのGTウイング。GTウイングが出てすぐの初期型ですよ。足はシルバーだったんですけど、ブラックアルマイトかけて黒くしてあります」
「あと、ボンネットは一応ウエットですけど、カーボン。だけど、色違いが嫌だったんで塗っちゃいました。そんな高くないですよ?アメリカか台湾の輸入品です。ちょっとチリが合ってないですけど、そこそこ造りはよかったです。あと、リアのトランクリップ。それも不明品ですね」
ドアの内張りは、ショップオリジナルで「早めにゲットしといてよかった」というカーボン製。今は発売されてないらしい。
ここまでの会話を見てもらっても、国産のカスタムカー好きの日常会話と、さほど変わらず、Yさん曰くパーツも豊富で予算に合わせて選択の余地は色々あるようだ。
足元をチェック
ホイルはレイズのCE28の17インチ。サイズは8.5J+38の4本通し、これにF20mm、R15mmのスペーサーが入っている。Yさんはどちらかというと機能性を重視する為、軽いホイルを選択した様子「isはたしか純正が15インチ、オプションで16インチとかでしたよ」と話す。17インチの選択はトータルバランスを欠くことなく、大きすぎず、ベストサイズに思える。
タイヤはADVANのAD050、サイズは225/45/17。
車高調は、STDスペックのアラゴスタ。これについては、rd baseの金本さんが教えてくれた。興味のある方は問い合わせてみてほしい。
「STDって会社があって、スーパー耐久とかレーシング車両を任されてる会社で、アラゴスタをベースに造ってくれる。自由長とバネレートだけ言って、完全にお任せでもバッチリ作ってくれるんですよ」
STDさんは、大学でクルマのサスペンションの講義までしているそうだ。筑波のダンロップコーナーで、外から見てるだけで色んな事が分かるというから、凄いの一言。
アームは、リアのアームを一箇所変えてる以外は純正。ブッシュはフルピロ化。キャンバーF4度、R3.5度。「基本的には、筑波2000に合わせた仕様です。筑波2000に合わせとけば、だいたいどこ走ってもいいような。自分的な感覚ですけど、細かい事言えば色々あると思いますけど」
ブレーキは台湾メーカーのARMAスピードのMシリーズ。
「あんまつけてる人いないかもしれないですけど、キャリパー、ローター、パッドがセットになってて、鋳造モノブロックで安いし。ローター2ピースに見えるけど、ワンピース。フロント対向4ポット、リアは2ポッド。効きは問題ないですね、自分は気になった事ないです」
室内はシンプル、燃費計が面白い
室内はサイトウロールケージの6点に斜行バー、サイドバー。バケットの後ろにはクロスバーが設置されている。純正状態で高剛性と聞いたが、そこにさらなる補強は必要なのであろうか?
「まぁ。まだまだやることがあるんですけど、やればやるほど効果はありますね。ロールケージ入れたら、5mmの段差でも分かりますよ」
運転席周りは、バケットがレカロのSPGとSR-3。メーターには燃費計、サーキットカウンター、デフィリンクのディスプレイ、スパルコのステアリング。コンピューターはショップオリジナルの書き換え。
「内装は全然あきない。シンプルだし」と話す。シンプルであるが、造りはしっかりしているコックピットだ。
「燃費計はアクセルの踏み方で、メーターが振れて燃費の予測ができるそうだ。昔は面白くて見てましたけど、今は全然見てないです(笑)」
リアはアンダーコートを剥がして、一部スプレー缶で塗っている。トランクにはKSPのコレタンと国産の燃ポンが入っているとの事。
頑丈なエンジン
ベース車にとってエンジンが頑丈というのは魅力的な要素だ。isは前期の1.8Lが鋳物で、後期の1.9Lがアルミのブロックになっているという。
「前は、走行13万キロの同型乗ってましたけど、この型って10万キロから調子良くなるかもしれませんね、これよりも全然調子よかったですね(笑)E36の1.9Lはアルミのブロックで、これは1.8Lの鋳物のブロックなんですけど、こっちの方が好みですね。なんでなんでしょうね、トルク感あるし、よく回ってるように思います」
エンジンは基本的にはノーマルで、吸排気に少し手を入れている程度でサーキットを走り続けている。
エアクリはK&Nで、カーボンのボックスのラムエアシステムは、グループ・Mのオリジナル製品。
ラム圧は、走行による空気抵抗を利用し、独自の形状のファンネルで空気をより多くエンジンに送っている。つまり理論的には、速度があがるほど、吸気効率あがるそうだ。
「他は、ヘッドカバーは色塗ってて。あとは、ダイレクトイグニッションにみたいにしちゃってます。コイルをプラグの上に持ってきたみたいな感じ。それくらいで」
吸排気チューン。水温対策、ウィークポイントは?
エキマニは純正。
「純正は元から等長なんですよ。だから変なのくっつけちゃうよりは、そのままの方がいいんですよね。マフラーはKazu Techのワンオフ。軽くて安くってコンセプトです。1.8Lだけど、それでも、けっこう走れる仕様になってますよ。ミッションもノーマルだけど、ゲトラグが入っているし」
水温、油温対策はどうだろう?一見したところ、純正のままのように見える。
「純正のままですよ。サーキット行っても、水温は100度は全然いかないですね、90度台ですよ?前にレーシングクーラント入れた時は80度後半?ビックリしました。で、冬場オーバークールで高速道路走ってた時は67度とかになっちゃって、ブロック歪んじゃうよって。油温の方が上がってるよみたいな。そんな感じです。水温で100度でワーニング鳴るように設定してるんですけど、鳴ったことないですね」
NAという事もあるが、Yさんの激しい走りを考えると、このクルマの出来の良さが分かる。また通常走行時における燃費についても、10km/Lほどらしいので経済的でもある。
「ウィークポイント?あんまりないんじゃないですかねぇ?非力なところくらい?ただ、マウント同じなんで、M車のエンジン載せ替えもできますしね」
BMWのM車とは
BMWに詳しい方なら、何を今更と思われるかもしれないが、改めてBMWオーナーの方に、通称M車とは何かを聞いてみた。
「M3、M4とかあるでしょ。MってBMW純正のチューナーかな。M車って言って、BMWの中にMって関連会社がある。トヨタでいうとTRDに近いかな。M車が造るクルマは、Mスポーツとか、Mテク仕様と呼ばれたり、エンジンにMって付く場合が多いかな」
このクルマの面白いところ
Yさんは、筑波のライセンスをもっているので、フリー走行日によく行くそうだ。基本的には、タイムを刻むスタイルではなく、楽しく走るスタイル。では、国産車に乗ってる方に向けて、このクルマの面白いところを教えてもらった。
「走りに行くタイミングは気晴らしとか、走行会前の体慣らしにいきますね。これは元々ワンメイクとかのレース出ようと思って買ったんですけど。いじってるうちにだんだん楽しくなっちゃって。今は楽しいから乗ってますね」
「面白いところ?これ、基本的に曲がるように造ってるんですね。コーナリングスピード重視というか。元々ストレートは遅いんで、タイム出そうと思うとコーナー頑張るしかない。車自体はそんなに重くない(1160kg)上に、エンジンが4気筒なのに、だいぶ後ろに。運転席よりに置いてあるので、やっぱりコーナー、回頭性は良いんですよね。で、足もそれなりに造ってるんで。もう、コーナーだけで言うと、国産のターボ車とかに追いついちゃうんですよね。小さいサーキットだったら下手すると抜けちゃうかも。でも、ストレートでまた抜かれますけどね(笑)やっぱりそこが快感かもしれないです」
「パワー?ターボとかスーパーチャージャーをつけちゃえばいいんでしょうけど、壊す可能性も出てくるんで、無理せず、楽しめる範囲で。てか、けっこう大概のクルマはコーナーで追いついちゃうし、自分たちは、けっこう無茶しても突っ込んでいけちゃうんで。筑波サーキットのフリー走行の日とかは、車種関係なく走るんで面白いですよ。まぁ、ただ国産でもロードスターとか、コーナリングマシンに仕上げてるクルマは、やっぱり速いですよね」
走りのベース車
高級車、重い、大排気量、曲がらない、維持費も高いし、パーツも高い、ラグジュアリー車。
BMWにそんな偏見を持っている方もいるのではないだろうか?BMWも多種多様な車両があり、こうした固定観念は、メディアが創り上げてしまったイメージなのかもしれない。
好みは置いておいて、中古車相場や、車両のスペックだけにフォーカスすると、モータースポーツを楽しむ上で、極上のベース車を手に入れる事が可能なのかもしれない。
もちろん、こうした事情を知ってBMWフリークになる人も少なくないようだ。
BMWは現行でもスポーツタイプのシリーズがあり、走りを意識したモデルも多い。
「実は軽快感のあるクルマですね。ボディ剛性もいいですし。エンジンも10万キロくらい?ほんと7万8万走ってないと、“あたり”ついてないんじゃないかなって感じありますね。今、自分のエンジンも固い感じですね、前に乗っていた13万キロのエンジンの方がよく回ってましたもん」
「筑波のフリー走行日に行って、初めて会う国産乗りの方と話すんですけど、やっぱり敷居が高いように言われるんです。でも、自分たちも高いクルマ買っていじって遊んでるわけではないんで、足と吸排気だけでサーキット走って楽しめますよ。結局、昔のAE86とかロードスターに近いイメージですね。それの剛性いい外車版って感じですかね」