ドリフトとは一見無縁なカナダのとある場所で、毎年ドリフト愛好家たちが集まるイベントが行われている。
カナダというと日本の人は山や森、湖のことを連想しがちだが、僕の地元はThe Prairies(カナダ草原部)と呼ばれる地域にあり、主に平地ばかりである。
土地が平べったく、まっすぐな道が多いため400mのドラッグレーシングなら最適だけど、ドリフトには向かない。
しかし、ここに住んでいるドリフト好きたちは、そんな状況でもできる限りを尽くして大好きなカルチャーを楽しんでいる。それこそがホームであり、プライベート・チューナーのあるべき姿だと僕は思い、彼らを尊敬している。
Kings Park Speedway
雪もようやく溶けて、今年の最初のドリフト練習としてKings Park Speedwayでそのコミュニティが集まると聞いて、僕は足を運んでみた。
この小さなオーバルトラックのサーキットは、1967年にダートトラックとしてオープンし、1970年に舗装された。
こういうイベントに来ると、毎回僕は集まったクルマに驚かされ、熱いファンサポートに心を打たれる。
まず最初に印象的だったのが、参加者たちが皆とてもウェルカムな雰囲気だったこと。
日本で出会った謙虚なクルマ好きのコミュニティを思い出させてくれた。皆お互い顔見知りであり、新しい人が訪れると家族のように暖かく迎え入れてくれる。
ピットエリアを歩く
集まったマシンは主にNissanだったが、オリヴィアという女の子が持ち込んだE36 BMWなど、違う車種もチラホラ見かけた。
以前はこういうイベントで女の子を見かけるとたいていサポーターだったが、ここ数年でクルマに乗って参加している女の子、自分でクルマをいじっている女の子を見かけることが増えていて、嬉しいことである。
オリヴィア以外にも、S13をいじるメーガンがいたが、彼女をサポートしている人はなんと彼女の父親だった!
日本の純正パーツが現地ではステータス
こういう場では極端に派手だったり、がっつりエアロパーツを装備したようなクルマはあまり見かけない。
アフターマーケットのエアロなど、大きなパーツを日本から輸入しようとしたら送料がなかなかの額になる。
送料がパーツそのものと同じくらいかかってしまうこともあるくらい。
だからか、北米ではキットのレプリカがよく売られているが、JDM愛好家たちにとっては本場の日本から純正パーツを手に入れることがステータスになっている。
イベントにはフロントバンパーを外した状態のクルマがたくさんあったが、それは日本から輸入したパーツの状態を保護するためである。ピットを歩いていると、とあるシルビアが目に留まった。ストリートで見かけそうなクルマだったからだ。
チェイスのシルビア
マシンの写真をとっていると「thank you!」という嬉しそうな声が聞こえた。
シルビアのオーナー、チェイスだった。写真を撮っているとなんか邪魔をしているようで申し訳なくなってくるので、それを聞いて安心した。
彼に話を聞いてみると、カナダにようやく春が訪れ、やっとこのクルマに乗ることができてとても興奮しているとのことだった。
磨かれたツヤのあるホワイトとゴールドの組み合わせは昔から好きだった。
このシルビアの足元はWeds CerberusⅡのホイールだが、もともと18x8jだったものを9.5(フロント)、10.5(リア)+15のオフセットにしてある。
安価にスタイリングを楽しめるという理由で、こっちではカスタムのホイールナットがとても人気である。
そしてこっちではフルサイズのピックアップトラックがよく走っているが、このイベントのサポート車両もこのDodge Turbo Dieselのようなトラックが主だった。
コースを見学
トラックはただのオーバルだが、ドライバーはストレートの部分でも横向きでドリフトしたまま走行するテクニックを駆使することになるため、日本の峠と似たコースのあるカナダのロッキー山脈などで行われるドリフトイベントで有利になるという利点があることに気がついた。
彼は動画を撮影しているのだろうか?またはセルフィーか?
ストレートではドリフトをせずに、フルスピードでコーナーを曲がるドライバーたちもいた。
残念なことにチェイスは、不注意でフロントバンパーを傷つけてしまったとのこと。しかし1週間以内に修復してペイントし直すそうだ。さすが!
草の根モータースポーツ
自分が知る限り、ここでのモータースポーツは国からのサポートを一切受けず、ボランティア・ベースで行われてきた。
イベントに来ていた人々は皆、法に触れるようなことはせずにサーキット内だけで楽しんでおり、モータースポーツのイメージを向上したいと言っていた。
いつか、ドリフトのためのサーキットの設営ができるように、彼らは国からの援助を求めている。
そういった夢がいつか実現されるまで、こういった小規模なイベントに愛好家たちが集まり、子どもたちはタイヤの煙やエンジン音、そしてときには(残念でありながらも)エキサイティングなクラッシュに目を輝かせるのだろう。
このコミュニティは小さいかもしれないが、彼らがいる限りこの地のモータースポーツのスピリットは絶やされない。
なかには日本語のステッカーが貼られたクルマもあり、たいていのドライバーはその言葉の読み方すらわからないのだが、日本のクルマ文化に多大な影響を受けていることは明確だ。
彼らは尊敬する日本のドライバーたちが、ときにはクラッシュしながらも、クルマを楽しんでいる姿をネットで見ている。
自由に楽しみ、それを仲間たちと分かち合う、それがクルマ真の楽しみ方じゃないだろうか?