関東某所、まだ日が昇る前にベベさんとお会いした。前日は暖かかったが、この日は気温が低く車内インタビューから始まった。
べべさんは、言わばクルマ遊びのベテランで、カスタムは、峠仕様から始まり、サーキット仕様、スポコン、ヘラフラを経て現在の仕様に至る。
プロセス
「当時は82の丸目スターレットに乗ってて、峠はドリフトが最盛期の頃でしたね」
80年代後半から90年代の峠と言えば、KP、EPスターレットがシビックや86、シルビアに混じって走る姿がよく見られた。
「おばちゃんが運転してるの、今でもたまーに見ますけど」
と現在では、その姿を見るのもまれになってきた。そんなスターレットがどのように変化していったのだろうか?
「峠走ってた後、サーキットに行ってたんですけど、資金的に厳しくなって。クルマ遊びどうしようかな、みたいなところで、ちょうどドレスアップ?ワイルドスピードが流行りだして、あぁ、じゃあドレスアップだったら、自分でいじるの好きだから、自分でやれば、そんなに費用もかからないしって、だんだんそっちに行ったって感じですね」
車内で、当時の様子を写真で見せてもらったが、アンダーネオンをつけたり、いわゆる“光り物”で遊んでいたようだ。
「で、スポコンでずっと乗ってて、それが流行りじゃないですけどね、ちょっと廃ってきて、どういう風にしようかなぁってなった所で、ヘラフラがその頃出てきて、もっとストレッチなタイヤ履いて、車高ガッツリ落としてみたいなのが流行りだして。で、それちょっと見てる内に、その流れでスタンスに行った感じですね」
マイアミブルー
それでは、べべさんのカスタム術に迫っていきたい。まずは、そのカラーリングから。
一見すると、ソリッドである事は分かるが見たことの無い色合い。オリジナルの調色なのであろうか?
「ずっとリメイクしながら乗っていこうと思ってたんで、造っちゃうと、その都度、調色するのが大変だったんで、純正で好みの色探した感じですね。ただ、古いんで色番探すの大変でしたけど(笑)」
確かに古い車両なら、ありえなくもない。今見るとこんなにも斬新に見えるか。
「えっと、古いHONDAのシティのカブリオレ。ブルドックⅡあった頃にオープンになるクルマがあって、その車種にだけあった設定のマイアミブルーっていうのがあって。で、その色が雰囲気いいし、塗ってるクルマいなかったんで、3年前くらいに塗りました」
しかし、よくDIGってきたなと思ったし、それをセレクトしたのはセンスだと思う。また、ウインドウに貼られたカリフォルニアイエローのフィルムとのマッチングがいい。
カラーリングとフィルムの組み合わせこそ、アイデアとセンスで勝負したストリートシックなクルマと言えるのではないだろうか。
バッドフェイス
はじめて、このクルマに出会った時、その世界感に引き込まれた。それは、珍しい車種だからか、コンセプチュアルにまとめられているからだろうか。
バッドフェイスとノーズ延長のインパクトは大きい。少なくともスターレットでは初めてお目にかかるカスタムだ。
「自分がやった時には、ほとんどいなかったと思うんですけど、今は数台いらっしゃるみたいですね。通常はアイラインをボンネットに埋めると思うんですけど、自分はフロントをゴルフみたいに潰そうっていう感じでやってます」
少し怒っているように見える顔が、何故か哀愁感が漂っていて、何ともたまらない。
製作については、べべさんが手掛けており、FRPでボンネットの先端を100mmほど延長させて、その形状を造り変えている。
現物を見ても、よく出来ており、特にFRPを扱った方はカーブした部分の加工方法が気になるだろう。
「そこは知り合いの本職に相談したんですけど、差し金をライトの両端に当てると、バンパーとの隙間があくので、そこを埋めて延長していった感じですね。そうすると綺麗な半円になりますね」
こうして、装着してるエアロは、ベースが既製品なものの、プラスアルファの加工をしてセットアップさせている。
また、ディティールにもこだわっており、運転席以外の鍵穴、ウォッシャーノズルの穴もスムージングされている。
全体的にクリーンに見えるのは、こうした苦労があってこそだろう。リアフェンダーも履きたいホイールをセットした上で叩いてるそうだ。
ジャムレーシングコンプリートエンジン
べべさんはプライベーターだ。ボディワークをはじめ、たいていの事は自分でやってしまう。だが、エンジンについてはショップでコンプリートエンジンに仕上げている。
考え方次第だが、たいていの場合、エンジンやセッティングについては、専門のショップに出したほうが無難だろう。
「スターレットがまだ新車で買えた頃に、スターレットっつったらジャムレーシングみたいなショップだったんですけど。今は無くなっちゃって。自分は壊さないように大事に乗ってますね。自分でメンテして」
タービン交換車との事だが、K1タービンとはどんなタービンなのだろうか?
「その当時に、K1シリーズってポン付けタービンシリーズみたいなのが出てて、フランジとか何も交換しないで純正のエキマニに、そのまま付けられるタービンで。ポン付けで200馬力出るみたいな仕様だったんです。当時セッティングして、付けたばかりの時に測ったら200ちょい出てましたね」
軽量ハッチにタービン交換車。最近の国産車では希少な走るクルマだ。
詳細
この辺りで本車両の詳細を頭に入れておいてほしい。以下になる。
ジャムレーシングコンプリートエンジン(フルフロー加工鍛造ピストン、ピストンコンロッド重量バランス取り、軽量バルブリフター、オイルパン片寄防止加工、ブリッツK1タービン、ブリッツインタークーラー、オリジナルヘッドカバー塗装・加工、ワンオフオイルキャッチタンク
TRD強化クラッチ、TRD機械式LSD
ブリッツsusパワーエアクリ、ワンオフエアクリ移設パイプ、サード触媒、バーデイクラブ、スペック2マフラーシャコタン加工
ブリッツ強化ポンプ、サード強化レギュレター
バリスフロントバンパー、バリスエアロボンネットバッドフェイス加工、ライブスポーツワイドフロントフェンダー加工、ライブスポーツサイドステップ短縮加工、ジャムレーシングリアバンパーワイド加工、ライブスポーツウイング、リアフェンダー叩き出し加工、マイアミブルーオールペン、クラフトスクエアエアロミラー、鍵穴スムージング
クスココンプL-ZERO車高調ショート加工、フロントバネ:スイフト13kg、リア8kg、強化ブッシュ
フロント:ワークCR01、15×8J+0 タイヤ:165/50r15
リア:15×8.5J+8 タイヤ:185/45r15
ブリッドジータ3カーボンフルバケット、クスコ5点式ロールケージ、デフィ6連メーター、ブリッツブーストコントローラー、ジャムレーシングフルコンピューター、欧米マイルメーター、内装フルブリッド張り替え、アルカンターラ張り替え、車内スバルブルーオールペン、オーディオアンプ、リアフロア埋込、ドアスピーカーアウター自作埋込、エアコンパネルオーディオ入れ替え移設、iPod埋込
足回り
足回りをはじめ、所々走っていた頃のなごりが見られるが、軽量ボディにしては、バネレートが高いのは車高下げの為だろうか?
「そうですね。普通だと10K以上は入れないんじゃないですかね。走ってた頃は、フロント8Kで十分だったんで。10K以上入れたのは、ステアリング切ってる時にカーブとかで突き上げちゃうんで、バネレート上げましたね」
「ただ、バネレート上げて車高下げるのに、中のケースをショックが短い車から持ってきて入れ替えてます。全長式なんですけど、車高下げていくと、ショックのケースが下から出てくるじゃないですか?そしたら、ちょうど、そこがドライブシャフトに当たっちゃって(笑)じゃあ短いのないかなってって、同じクスコで探して」
ステッカーチューン
足元を見てる最中に、ワークのセンターキャップに目が行ったのだが、あまり見たことがなかった。ワークから発売されているのだろうか?
「ないですね!それも造りました。中の文字からカッティングシートのプロッター買ってきて、自分で造ってます」
いわゆる走り屋風に、バイナルやステッカーをボディに張り巡らせるのも一つのスタイルかと思うが、クリーンに仕上げるなら、ベベさんのステッカー使いを見てほしい。
元となるデザインはオマージュだったりするが、コンセプトありきで扱われている為まとまっている。
エンジンルームのコンセプト
「リトルツリーが好きで、この柄の匂いが好きで使ってたんですけど、自分のクルマの色とも合ってるなと思って、リアフェンダーの文字も同じ柄にしてます。ヘッドカバーも同じ柄で塗って」
オイルキャッチタンクやステー類は、CADから起こして自作。パイピング類も曲げてあるパイプを購入してきて、既製品と併用している。
ヘッドカバーとタワーバーのナットは、アメリカンチョッパーなどのバイク用パーツを流用しており、これまたよく考えたなと感心してしまった。
何より、リトルツリーとのコンセプトにマッチしている。
スパイクナットは、ピッチが合う物をバイク屋さんから購入したそうだ。
ちなみに、今後はワイヤータックなどの間引きや、ボンネット裏のスプレーアートに取り組むそうだ。
室内
室内も見たところ色々手が入っている様子。
「スポコンやり始めた頃に、けっこうオーディオやる人もいて、その影響で。スターレットって音良くなくて、スピーカーをドア側に移設して、アウターバッフルとかも造ったりとか。飽きたらまた形変えてって、これ3作目くらいなんですけど(笑)」
運転席を見ていた最中に、メーターがマイル表示になっている事に気がついた。これは、やはり輸入しているのだろうか?
「欧米の方は、スターレットが輸出されてたみたいで、向こうは今でも色んなチューニングショップが残ってるみたいなんです。日本で廃止になったクルマもけっこう行ってるみたいなんですけど、これは、向こうのスターレットやってるショップから輸入しました。たぶん日本でつけてる人いないんじゃないかな。ELのパネルを買って、裏側にLEDも入れてます。向こうの人は、日本の仕様見たら何だかわからないので、これに変えて乗ってるんじゃないですかね」
ipod埋め込み
思わずマネしたくなるアイデアカスタムを見せてもらった。べべさん曰く簡単なそうだが、センターコンソールに、アクリルとアルカンターラを使ってipodを埋め込んでいる。
「これ、簡単なんですよ。元は普通の小銭入れのスペースなんですけど、ただ単にアクリル切り出して、裏にLED入れて、アルカンターラ貼って、ipodがピッタリハマるような形にしてはめ込んでるだけです」
まるで、その為のスペースに見えてしまうが、デッキ型のナビは使わないけど、音楽は聞きたいという方におすすめかもしれない。
ナビとオーディオスペースを丸ごとあける事ができるので、あいたスペースにメーターを設置するなど、フリースペースとして使える。
ベベさんの場合、メーターに関しては。助手席のグローブボックスの上部に、メーター設置用のパネルを自作して設置してる。
「最初はコンソールに穴だけあけて付けてたんですけど、なんか少しこっちに傾ける感じで角度つけたいなって思って、FRPで造って。けっこうFRPで何でも造れちゃうんで、好きでやっちゃいますね。型は塩ビのパイプかな。40φくらいのパイプを突っ込んで、それでやってます」
まさかの上下入れ替え
室内メイクの話をしてる時に、驚きのカスタムを教えてくれた。何ともマニアックだが、実際のところは実用的だったりする。
ナビとエアコンパネルの位置を入れ替えているそうだ。
「この当時のクルマって、ナビとエアコンが逆だったんですよね。この方がいいですよ、ナビも見えやすいですし。ごっそり入れ替えてます。ハザードのボタンも入れ替えて。中の配線を全部ぶった切って、100mmくらい延長して、上下ひっくりかえした感じですね。エアコンパネルとかもFRP使って切った貼ったしてます」
言われてみれば、一昔前はベベさんの指摘通りクルマのナビと、エアコンのパネルの位置関係は、メーカー問わず逆だったように思う。
内装
内装については、アルカンターラとブリッドに張り替えられている。勿論DIYによるものらしいが、べべさんはこうした内装の張替えにとどまらず、バッドフェイス専用のノーズブラもミシンを使って造っているそうだ。
何とも器用すぎる。
リアはドンガラなものの、オールペンをして一工夫加えている。
「アンプとキャパシタ埋め込んで。アンプのカバーも鉄板に見えるようにFRPでカバー造って。で、あと、リアのタイヤの中にウーハー入れてますね」
活動
「今はイベントばかりですかね。ほとんど走りはやってないです。仲間にクルマ好きがいるんですけど、その影響もあって、色んなイベントに出して。出してない時には次のイベントに向けて、リメイク何しようかなって考えて、いじってってやってる感じですかね」
ただ、珍しい車種ゆえに悩みもあるようだ。自分のジャンルが分からない。
本メディアの解釈では“レア・スタンス”と定義させてもらうが、それもまた人それぞれの受け止め方でよいかと思う。困るとすればイベントにエントリーする際。
「今、もう出せる所があんまりないんですけどね。トラックマスターズとか、あとMOONのやってるストリートカーナショナルズとか、そういうオールジャンル、スタンスOKみたいな所に出させてもらってますかね」
「本当は縛りがなければ、北米野郎とかジャムとか、スタンス系のクルマが集まるようなイベント持っていきたいんですけど、スターレットは欧米とかアジアには行ってるんですけど、北米には行ってないんで、なかなか出せなくて。ただ、もうすぐ25年経つんで、そしたらWEKFESTに出そうかなって思ってます。WEKで選考通ったら、なんか認められた感ありますしね」
インスピレーション
べべさんのクルマ造りのインスピレーションはどこからきているのだろうか?雑誌やネットはあるかと思うが。
「どうですかね?うーん」
「一番最初は、たしかに、そんな感じだったかもしれないですね。当時ヘラフラが流行った頃に、シビックがいっぱい雑誌に出るようになって、で、カッコいいなと思って、シビックがやってるようなパーツ買ってきて、それを加工してつけて。みたいな感じでやってたんですけど、イベント持っていっても、結局マネしてるじゃないですけど、つまんないというか、あんまり代わり映えしないっていうのがあって」
「じゃあ、コンセプトつけて誰もやってないような感じにしてったほうがいいなと思って。自分、ハワイが好きだったんで、じゃあハワイっていうイメージでやろうって感じで」
べべさんにとって、クルマ造りとはオリジナリティの追求なのだろうか?
「そうですね。色もそれ系にしたいんですけど、他人とかぶらないようしようかなって所から始まってるし、ベースもその当時だとシビックとかいっぱいあったんで、乗り換えっていう選択肢があったと思うんですけど、やってない車種でやったほうが目立つよなっていうのがあって」
様々なジャンルを消化して、辿り着いた先はオンリーワンなカスタムメイク。
モディファイを繰り返し、その度に構想を練り、自身で造る。それは趣味であり、ライフワークのようになっているであろう。
「そうですね、それが楽しくてずっとやってる感じですかね。もうやりはじめて13年経つのかな、ライフスタイルになっちゃってる感じですね。今、まだやってる事も終わってないこともまだまだあるんで。そんな感じで遊んでます(笑)」