小泉コータローについて知るには、多くを語る必要だありそうだ。その経歴もさながら、会話のラリーも面白いほど続けてくれる。加えてクルマ造りや走りについても、見識を備えた人物だ。
今回は、そんな小泉氏が営むショップに伺った話をしたい。
小泉商会
長野県にある小泉商会は、中古車販売、整備、チューニングまで幅広く手掛けている。ホットバージョンやメディアの露出もあって、県外からお客さんも多く訪れるそうだ。
「そうですね、県外からのお客様も多いですね、関東方面とか愛知の方とか、やっぱり古い車なんで、いじれるショップさんが限られてきて、本当に何件かは全国にあるんですけど、そこから選んでもらって全国から来てもらってる感じですね。うちはN2みたいなクルマが軸になっている中で、チューニングした車だったりノーマル車のハチロクもけっこう扱ってるんで。中古車も常に6、7台はキープしてますね」
大学生の頃に出たホットバージョン
さっそく、小泉氏が走りとお店を始めるきっかけについて聞いてみた。
「自分、元々は関西の人間でたまたま大学が長野。それで先輩がAE86乗ってて影響を受けて。20数年前ですかね。まぁ、20代そこそこの時に、間瀬サーキット走り始めて、ちょっと何ていうんですかね、認知されはじめて。速いやつがいるぞみたいな感じですかね。で、近所の長野のショップさんで、たまたまN2というカテゴリーのレースカーを造ってたんですね、お店で。デモカーみたいな感じで」
「当時まだ大学生だったんですけど、それに、乗ってもらえない?って誘われて、それで、その車に乗らせてもらって。で、その車で一番最初にホットバージョンっていうビデオがあるんですけど、そこのN2決戦で、土屋圭市さんと競うみたいな企画に出させてもらったんですよ。で、初回は全然結果はイマイチ(笑)」
「それをキッカケに、じゃあ自分でN2仕様を造ってみようかと。それが、本当にこのクルマなんですけど(笑)そう、当時25歳とかですかね。だから、えらい前なんですけどね、クルマ自体は。うち、妹も関西でショップやってるんですけどね。今はレース屋さんっぽい事やってるんですけど(写真の“亜衣”というステッカーは妹さんのショップ)。妹と共同で一緒に造ろうかみたいな感じで造って、それで、また、ホットバージョンに出させてもらったんですね。それくらいの時に、メディアに出た事で名前を知ってもらえて。じゃあAE86専門でショップやってみようかって言って始めたのが、30歳くらいですね。で、ここで看板あげて、始めたのがきっかけですね」
話を伺っていると、ショップを開いた事は、特別な事ではなく、大学の頃のライフスタイルをそのまま続けたような自然な流れだったようだ。つまり小泉氏にとっては、長野県で過ごした大学生活が人生の大きな財産となったようだ。
ハチロク好きにはたまらない場所
この日は、次のレースに出るためのファイナルを調整している最中であったが、チューナーとしても守備範囲が広い。
「エンジンも自分で造るし、クロスミッション組んだり、足回りだったり、セットアップだったり、まぁ、今はちょっと減りましたけど、N2仕様で造って!みたいなレースするお客さんも多くて」
それにしても、場内にはハチロクだらけである。他にもマニアが喜びそうな車両から著名人の車両まであって、さながら博物館のようであった。
後日、AE乗りにその話をすると「自分も行きたかった」と話していた。
当日、取材の話を聞きつけて、163レーシングのYさんも遊びに来てくれた。それほど、AE乗りや地元のクルマ好きには魅力的な場所なのであろう。
また、小泉氏はクルマ造りやN2レースへの参加だけでなく“走る場所、集まる場所”も提供している。
「筑波のハチロク祭りってイベントが12月にあるのと、9月に岡山国際サーキットでハチロクフェスティバル。それが軸。あとは年2、3回くらい間瀬サーキットで、走行会をやってるんですよね。そこで、お客さんに走ってもらう。そういう場所も造ってるんですよね。うちだけのお客さんだけじゃなくて、他のショップさんからのハチロクもけっこう来てもらって、色々集まってもらってますね」
自社のお客さんの為だけでなく、オープンなコミュニティーを造る姿勢。そこにも小泉氏の魅力があると思う。
N2日本一に輝いた感想とタイム
日本一にもなったAE86乗りと聞いていたが、具体的にどういった話なのか聞いてみた。
「今年ちょっと3位になっちゃっいましたけどね。ホットバージョンのレースが、たぶんAE86でN2の最高峰のレースなんですよね。去年は勝たせてもらって。今年は富士だったんですよね。岡山でやったりとか。元々の企画は、筑波サーキットだったんですよ。筑波N2決戦って言って、筑波でずーと走ってて」
「筑波で59秒7くらいかな今。この車はN2決戦でレギュレーションがあるので、その中でのタイムですね。700キロくらいのクルマもあるんですよ、それだと、もうちょっと速いタイムも出た事もあるんですけど。カテゴリーの中だと、けっこういいタイムですよね。間瀬サーキットだと3秒前半くらいかな。そんなレコードだと思います」
AE86の魅力とは
月並みな質問をあえて聞いてみたくなった。それは筆者のような一般人と違った印象を持っているのか、気になったから。AE86の魅力とは?
「うーん、まずは軽さ。クルマの軽さ。これは、800キロくらいなんですよ、車体が。やっぱり今のクルマにはない軽さがあるという事と、あと、4AGっていうエンジン。まぁ、排気量アップとか色々やるんですけど。軽さとエンジンのレスポンスで、クルマを自由自在に動かせるっていう魅力があって。で、このクラスだと、例えばサーキットでのタイムだったら、車格の高いスポーツカーくらいは走る事があるんですよね。まぁ、コースにもよりますけど。だから、ただ単に古くて、趣味で乗っているだけじゃなくて、ちゃんと今の時代にも通用するラップタイムも出る車体なんです」
抽象的ではなく実際に体験してこそ、持ち得る答えだと思った。
AE86の速さの秘訣
ハチロクと走った経験がある人は、その速さを不思議に感じた事があるのではないだろうか?もちろんコースや乗り手にもよるが、ある一定の環境で条件がそろうと、旧車とは思えない走りをする。アニメのイニシャルDでも、そういったシーンが幾度となく出て来るが、それについてはどう考えているのだろうか?
「そうですね、さっきの話で、もちろん軽さもあるんですけど、古典的な足なんですけど、その造り方によっては、やっぱり、FRの操縦性の良さっていうか。AE86ってアンダーステアも自分で出来るし、オーバーステアにも出来るから、ニュートラルステアで走れれば、すごい速いコーナリングができたりするんです」
AE86の秘話について
話は変わるが、以前に書いた「すべてのAE86ファンに贈る!!AE86の開発ヒストリー、元関東自動車のデザイナーが、当時の出来事や秘話を話してくれた」について、雑談を交わした。
「そうですね、シンプルな造りだけど、チューニング要素がそこにあるし、チューニングすれば変わる。もちろん素性の良さもあるし、あと、レビン、トレノ、2ドア、3ドアパッケージもあるから、そういう魅力もある。すごく良く出来た車だと思いますよ」
記事に書ききれなかった事や、当日の様子を話していると、興味深いと聞いてくれた。また、それに対して、こんな事も教えてくれた。
「AE86のボディフレームって、関東自動車製とトヨタ自動車製があるんですよ。それ、車体番号で分かるんですよ。5から始まる番号は関東自動車製で。で、関東自動車製のボディの方が人気がありますね」
AE86の現状について
AE86も旧車と呼ばれ、価格は高騰し、車両の数も相当減ってきている今。故障など起きた場合に純正部品などは、まだ出るのだろうか?
「純正パーツはちょっと減ってはきてるんですけど、FRPのパーツがあったりだとか、海外で造ってる方がいたりとか。まぁ、しいて言えば、フロント周りのフレームが、ちょっと出なくなってきてるんで、大きく当てると、修理が大変ですね。例えば、他の車からカットして、フレームを移植するとかしないと治せなくなってきてるんで。それ以外は大丈夫ですね」
そいうえば、80スープラなども、フレームが見つからなくなってきていると聞いたことがあるが、アフターパーツの多いAE86もまた、フレームに関しては同様に厳しい状況になりつつありそうだ。
ただ同時に、小泉商会にお願いすれば、何とかなるかもしれないというような希望も感じさせてくれる。
小泉コータローが造ったドリ車を紹介
小泉氏が保有するピンクのN2マシンに関しては、詳細を知っている人も多いであろう、本記事では割愛したいと思う。ただ、先日の記事でも紹介した、小泉氏が新しく造った、AE86のドリ車について説明してもらった。
エンジン、ヘッドの加工、組付け、足回り、セッティングなど、すべて小泉氏イズムが込められたマシン。
エンジン
「エンジンは、俗に言う4.5AGっていうエンジンで、ストロークはノーマル。ボアを4AGって、83φが限界なんですけど、83φのピストンを入れて1,660ccに排気量アップ。まぁ、クランクシャフトとかは、削りだしの曲がらないクランクで、コンロッドもH断面のクロモリコンロッドにして。1万くらい回してもらっても大丈夫なんですけど、常用は9000回転くらいで使ってるエンジンですね」
「ヘッドはTRDのカムに、あと、AE86ってアウターシムタイプっていって、シムが上に載っかってるんですけど、それをインナーシムに変えて、高回転まで回せて、山のすごい高いカムが使えるように造ってあります。ベースのエンジンは、AE92の後期型をベースに造ったエンジンですね」
マルチスパークシステム、MSD
「それにFCRの41φの4スロをつけて、火を飛ばすのとかは、クランクピックアップって、クランクで回転を取って、MSDっていって点火ユニットがあるんですけど、火を強くして、点火タイミングさえあえば、プラグコードから火をどんどん飛ばしてくれるっていうやつで。エンジン回転から拾った点火信号を、点火に変えるって言うんですかね。それで、隣りにあるのが、別体でレブを設定する感じですね(レブリミッター的な)」
「今9000回転にしてるんですけど。アメリカの部品なんですけど、旧車とかだと、わりとメジャーですね。N2の車両は、ちょっと点火マップを造れるタイプに変えてあるんですけど、わりと安くて、確実な火が飛ぶし、トラブルも少ない。信頼性のあるパーツです」
ミッション
「これはドリフト専用で考えてるんで、リボルバーさんという所のクロスミッションなんですけど、どっちかと言えば1速にグッとギア比を集めてある。だから最高速自体は、そんなに伸びないんですけど、どこのサーキット行ってもギア比が合うように。このミッションは最近、AE86でドリフトしてる人が使ってることが多いですね」
「リボルバーのタイプCってやつかな。で、それに合わせてファイナルギアを、これで4.1ってファイナル。AE86の純正って4.3なんですけど、もうちょっとワイドのファイナルに変えて、それでギア比を合わせてある。基本的には間瀬サーキットに合わせてあるんですけど、どこでも走れるように。ファイナルって大事なんで。AE86ってすごい選べるファイナルがすごいあるんですよね。純正流用とか。それを組み替えたりして使ってますね」
足回り
「足とかは、グリップに比べると、ちょっと柔らかめですね。縁石のったりすることも多いんで、足回りのセットというんですかね。わりとしなやかな感じですね。昔のAE86って、硬くてガチガチで跳ねてるイメージだったと思うんですけど、今のグリップもドリフトも、やっぱり、しなやかなに、乗り心地いいAE86のほうが速く走れるし、もちろん街乗りも気持ちよく走れるんで。だから、それに関してはノウハウというか、わりと詰めて考えてあります」
N2仕様と比べて、どう違う?
「エンジンは、あれに比べればパワーないけど、N2でも使えるエンジンなんですけど。あとは全部違いますかね。ミッションも違えば、デフも違うし、足回りの造りも違うし。ドリフトに特化してる車ですね。例えば、キャンバー角だったり、ナックルもほんとにドリフト用の。うちでも取り扱いさせてもらってるんですけど、関西の方のメーカーさんなんですけど、ゼグラスさんって言う所のナックルを入れてます」
小泉コータロー
おそらく小泉コータローを知るには、まだまだ足りない。それほど奥深さを持ち、聞けば聞くほど、引き出しから何かを出してきてくれる人物だ。
「世に名車は多くあれど、残るクルマは数少ない」これは、とある人物から聞いた言葉だが、AE86は未だに現役として活躍するクルマだ。
小泉氏もまた、そんな名車に見せられ、AE86と共に長い時を過ごしてきた。
そして、こんな会話があった。
「AE86と同じ魅力のクルマ??うーん」
「多分ないと思います。具合悪いですよ、正直これ(笑)普段乗ったって具合悪いですよ、そこは正直、認めてますけど(笑)でも、例えば、サーキットとか走っても行き着く所は、AE86だと思ってます。実際、現役のトッププロに、AE86に乗ってもらう機会あるんですよね。で、感想は、やっぱりすごい楽しい」
「AE86って曲がってくださいって、思った瞬間に曲がってくれるクルマなんですよね。同化する瞬間?やっぱりありますね。自分、もう20何年走ってますけど、未だにもっと速く走れるんじゃないかって思いますからね、それくらい、まだまだ先があると思いますね。間瀬サーキットなんて下手したら、何万周って走ってるかもしれないですけど、もっと速く走れるんじゃないかって思いますからね」
「AE86ってやっぱり、そのへん、何だろ、魔法のコーナリングができるんじゃないかと思わせる部分がありますね」
小泉商会
〒388-8006 長野県長野市篠ノ井御弊川759-5
営業時間:10:00~20:30
定休日:不定休(レース開催日)TEL:026-292-9860
FAX:026-214-2515
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