遅足ながらデモカー企画も3年目。
これまでメンテナンスを中心に進めてきたが、いよいよエンジンを降ろす時期になる。
エンジンを降ろすとなると「ついでにどこまでやるか?」という悩みに襲われるのだが、今回もメンテナンスが必要な所を優先しようと考えている。
作業を依頼するのは、名古屋にあるMCR factory。D-MAXのドライバー横井選手のショップであり、Mind Controlの拠点といった場所。
名古屋
名古屋と言えば、ショップも多くカスタム・チューニングユーザーが多い街のひとつ。取材に向かう高速でも86やシルビアが走ってるのを見かけ気持ちがはやる。
現地に到着すると、普段はお店をあけることも多いはずの横井選手がいて出迎えてくれた。
MCRではエンジンを降ろしてメンテナンス箇所がないか点検してもらい配線上げまでを依頼。作業はメカニックのムラセ氏が担当してくれるのだが、せっかくなので横井選手に話を聞く。
横井選手の事はドリフトしている方ならご存知かと思うが、日本を代表するドリフトドライバーで海外でも活躍している選手。
今回のリメイクで話を伺うと、ドライバーとしてだけでなくエンジンまで組んでしまうという事が分かった。
「元々、僕一人でやっててメカも自分でやってたんですけど、D1出るようになってからはチームがいるんで基本的にはやらないです。ストリートリーガルとか出てた頃は、制作から走るまで全部自分でやってました(笑)」
MCR
エンジンを組んでお客さんを満足させ、クルマを走らせればチャンピオンになる。これほどのスキルを持つ人物がいったい世の中にどれくらいいるのだろう?
どこまでが守備範囲かと聞けば、ほとんどが対象となるそうだ。
「エンジンも造りますし、ボディも造るし。まぁ、何でもやりますね。足回りももちろん。お店に来てくれるお客さんは走る人が多いですね、でも街乗りの人も多いですよ」
ショップが先だったのだろうか?それともドライバーとして活躍してから開店したのだろうか?時系列が気になる。
「えーと、ドライバーが先ですね。趣味からライセンス取ってストリートリーガルに出始めましたけど、その時はガソリンスタンドの店員だったんで。その時からクルマいじってたんで、ほとんど我流ですね(笑)」
趣味が高じてプロドライバーになりショップも持つ。クルマ好きにとっては夢のようなストーリーだ。
レース活動
そうなると走る時のクルマのコンディションや調子が悪い時には、どこが原因だとかすぐ分かってしまうのだろうか?デモカーの話を忘れて質問攻めにしてしまう。
「もう、すぐ分かるすね。トラブルが出始めたら、すぐ気づいてどこがどう悪いっていうのはだいたい分かるんで(笑)D-MAXの部品の開発もやってるんで」
レース活動やD-MAXの製品開発で得た知識や経験というのはお店にフィードバックされたりするのだろうか?もしそうならお客さんとしては嬉しいと思うのだが。
「されますね。やっぱり、どんどん部品も新しくなっていくし、いい部品も出てくるんで。海外にもいい部品もたくさんあるんで、そういう新しい知識を得て、お客さんにフィードバックしたりとかは出来てますね」
MCRは愛知、岐阜のお客さんが中心に集まるそうなのだが、遠方からのお客さんや海外からもショップに集まる。お店自体は敷居が高いわけではないので飛び込みでも対応してくれるそうだ。
ただ横井選手は多忙なので会えるのはタイミング次第かもしれない。この日は運良く横井選手とD-MAXのレース車両である2号機を見る事ができた。
移設
デモカーの話に戻るが依頼する作業について大変な所があるか聞いた所「ないです(笑)よくある事ですね」との回答。
ただ、納期や入庫のタイミングは要相談との事。傾向的にはエンジンブローのタイミングでついでにエンジンルーム塗装までやるお客さんが多いらしい。
また、配線上げについてはただ上げるのではなく、ヒューズボックスを室内に移設して、バッテリーはトランクに移設する事になった。
180sxはリトラがある為シルビアより少し時間が掛かるそうだ。メカニックのムラセ氏が教えてくれた。
「180sxは配線をけっこう造り直します。S13と違ってリトラのヒューズボックスがあるのでその辺を延長しないといけないので。今ある配線を切ってまた伸ばす感じですね。あと、リトラのモーターって電気食うんで、ちゃんとした配線でやらないと熱持っちゃうんです」
エンジン
しばらくしてエンジンが降りたとの事で再び名古屋に向かう。
MCRに着くとエンジン単体とエンジンが抜かれたボディがあり、見慣れたはずの180sxの姿に思わず見入る。
エンジン単体で見れる機会もそうないのでムラセ氏に色々教えてもらおうと思う。まずは月並みだがよくある不具合やウィークポイントなど。
「SRでよくあるのがオイル漏れですね。タペットカバーの前とか後ろらへんとか。オイル漏れとかにじみがしてる事が多いです。これはエキガスが純正と違うのでタペットパッキンが変わってると思うんですよ。だから綺麗なんですけど、滴っていくとこんな感じで汚れていくんですよ」
ちょうど隣にも180sxが入っているので比較しながら説明を受ける。こちらはレストア中との事でちょうどいい比較対象になった。
「あとはタービンガスケットとかもですね。ガスケットは変えてないので漏れやすい純正の紙の方なんですよ。これは漏れてはいないんですけど。エキマニ側も排気漏れしてるのがちょいちょいありますね。なので、そういうクルマはS15用を入れると純正がメタルの合わせなんでトラブル防止って感じになります」
「こういう所のホースもですね。エキマニも近いしゴムで油も中に通るんでカピカピになってヒビ入ってきたりするんで、たぶんこういうのを一度外したりすると折れちゃって油漏れたりするんで。このタービンの下のホースも見るからに固くなって表面が焦げてるんですけど、ここから油漏れたりするのは多々ありますね」
MCRに見てもらう前からオイル滲みが見られたので、漏れている箇所を探すようにお願いしていたが、今回はこれといって分かりやすい原因は見られなかったそうだ。
「パッと見で分かるケースでいうと、よくあるのはオイルブロックですね。ただこの辺はエレメント変えた場合、どうしても滴っちゃうんで穴とかに溜まってたオイルが出てきて下まで来て、この辺がオイルギッシュになるというのもあります。でも、これはそんなにオイル漏れの後はなかったんで」
このようにオイル滲みは特定が難しい場合もある。こうなってしまうと出来る限りの対策をしておく方がいいだろう。
「そうですね、クランクシールはミッション外したタイミングでしか変えれないんで変えてしまおうかなと。あとは内側の水のホースですかね。ちょっと分かりにくいんですけど、もう十何年物なので漏れてくると全部外さないといけないんで。タービン側とは違うんですけど分かりにくいですね(笑)インマニ外れてるエンジンあったらいいんですけど、インマニの奥のホースなんですよ」
ボディ
これまで行ってきたメンテナンスが功を奏したようで、これといってクリティカルな不具合は見つからなかったようだ。
エンジンマウント、ウォーターポンプ、オルタネーターも交換済みなので問題ないとの事。
最近は純正パーツも廃盤になったり高騰しているので長く乗るつもりのユーザーは機会があれば早め早めに対応しておいた方がいいだろう。
「思ったより綺麗ですね、色々交換された後があってメンテナンスされてたと思うんで、いい感じだなという印象です。酷いやつだとオイルでギドギドだったり水も漏れてたりで綺麗にする所から始めるんで」
エンジンの中はまだ見ていないものの、メカニックのムラセ氏から合格点を頂いた。ボディについてはどうだろうか?
「色々S13とか180sx見てきたんですけど、よくあるのがストラットのシーラーが付いてるあたりが錆びて朽ち果ててる状態のが多いんです。でもこれ見てる限りけっこう綺麗ですね。あとはバッテリーの台が錆びて朽ち果ててたりとかも結構多いんですけどそれも全然なくて」
「それとブレーキの通る穴の所からクラックが入ってたりとかもよくあるケースなんですけど、ここもそういうのがなくて比較的ボディは綺麗だなって印象です」
「ただ第一メンバーのこの部分だけ若干錆びてるかな。コンデンサーとかラジエーターについた水が滴って錆びやすい部分なんですけど、それ以外は綺麗ですね。隣のがちょうど分かりやすいと思うんですけど」
隣に置かれていた180sxを見ると確かにそういった症状になっている。この日は他にもSR車両があったので見せてくれた。
「溶接した所がまた割れてこんな風になったり。ブレーキの通る穴のクラックもこんな感じで割れてきたり。過去に補強されたと思うんですけど割れてきてますね」
素人質問だが、ブレーキホースが通る穴には当板をする事で改善しないのだろうか?
「この輪っかの周りに当板するとだいぶ良いです。一回割れて溶接すると今度またその横から割れてくるんで、割れる前に対策された方がいいですね」
配線加工
どうやら先に対応してもらう所もなさそうなので、次の作業に進む事になった。
今後の工程は、別の場所に180sxのボディを運んで“ある加工”をお願いする。その作業が終わってから再びMCRに運んでもらい配線加工をしてもらうような流れだ。配線について詳しく聞いておこう思う。
「ヒューズボックスを室内に移動させるんで、室内に移動できる配線は移動して。ライト類とかの配線はフェンダー横に穴をあけて、そこからまた室内に入れる感じです」
トラブルがあった時にダッシュボードをなるべく外さないようなルートで配線を引き直す。なるべく下を通して見えないように引き直してくれるそうだ。
エンジンハーネスなどを見た事ある方は分かると思うが、あの配線の束を見ただけで気が遠くなる作業。
通常こういった作業は電装屋さんの守備範囲かと思うが、そこまで出来てしまうこのムラセ氏だが、どういった人物かは次回お伝えしたいと思う。
今回の配線加工についてだが、配線自体は新規で0から造るわけではない。
「新規で全部造れと言われれば造れますけど、時間と費用がかかりますね。もし新規で配線造るなら純正のヒューズボックスにこだわらないで違うユニット使って造ったほうがコンパクトに綺麗にできると思います」
「今回は配線が割れてきてる所は綺麗な配線に変えます。リフレッシュみたいに考えてもらえれば。一応純正ベースなんである程度は純正を使いつつ駄目な所はリフレッシュみたいな感じです」
180sxは純正エンジンハーネスも一部廃盤になっており、社外品であっても現車合わせは必要になってくる。こうした選択肢であれば時間と費用が許されるなら新規で造りたい所だ。
そういえば、旧車と呼ばれる年式のクルマは配線を刷新すると別物になると聞いた事がある。
「配線の劣化とかで導通が悪くなったりすると、余計な電気ロスしたりとかあるので、いい配線を使って造り直したりすると電圧が安定して性能も安定するんですよ」
「最近のいい配線って細いんです。なのでもっとスッキリ造れたりするんです。皆さん、細いと駄目って思われるんですけどミルスペックっていう軍事規格のいい配線があって細いのに電気流せるんで、さらにスッキリ造れるんですけど、材料費の方がちょっと高くなってしまいますね」
エンジンを掛けるのが楽しみだが、完成はまだまだ先になる。
MCR factory
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