先日の記事では、マテックス・アクテックラリーチームのメカニックとして、石崎さんを紹介したが、本記事では、フェイスクラフトラリーチームと、所有するメインマシンであるGRBインプレッサについてお伝えしたい。
フェイスクラフトラリーチーム
石崎さんが代表を務める、フェイスクラフトの事務所には多くのトロフィーが飾られている。
「ドライバーはそんなには」と謙遜するが、昨年までは、フェイスクラフトラリーチームのドライバーとして国内ラリーに参戦して賞をおさめている。
「自分が(ドライバーとして)取ってきた中で、大きかったのは、アジアパシフィックラリーチャンピオンシップですね。北海道ですけど、これは自分の中で結構がんばりましたね」
レギュレーション
ラリーを知らない方に向けて、石崎さんにレギュレーションについて簡単にレクチャーしてもらった。
レースや車両クラスによって、その規制は異なるが、モータースポーツ全般で言えば“リストリクター”が代表的な物のひとつで、国内ラリーもまたリストリクターの装着が義務付けられている。
「エアクリから、インテークときてタービンの手前にある、くびれたラッパみたいなやつです。FIAがレギュレーションを決めていて、φ数は車両クラスよって違いますね」
リストリクターは空気の流入量を制限するようになっていて、パワーを抑える役目がある。先日紹介したシトロエンのR車両(グループAのようなカテゴリー)には30φのリストリクターがついている。年度やクラスによって違いはあるが、おおよそ33φまでのものが指定されるらしい。
ラリーのレギュレーションについて
レースにはレギュレーションが付き物とは思うが、そのレギュレーションはどのように確認されるのであろうか?
「レースとかラリーでもそうですけど、必ず再車検というのがあるので。で、どこを見るかっていうのは決められてないです。あと、エンジンに封印もあるし、タービンのチェックは必ずありますね。ラリーの場合は、野っ原みたいなところで車両整備やってて、再車検の時は、移動して、どこかの整備工場を間借りしてやってます」
ラリーは、整備や再車検はなかなか大変なようだ。石崎さんがピットのあるサーキットに行くと充実した設備に驚くそうだ。そういった面でも過酷なモータースポーツと言える。
GRBインプレッサ
それでは、フェイスクラフトのメインマシンであるGRBインプレッサについて紹介したい。
「仕様としてはグループN、あるいは全日本ラリーだと、JN6ってクラスのラリー仕様です」
外装を見ると、走った際についたと思われる小キズ以外には、さほど一般車両と変わりないが、中身は別物といった印象。
では、厳格なレギュレーションがある中で、参加者はどのようなクルマ造りを行い、車両の差を出すのだろうか?
「そうですね、改造規定は非常に狭いんですけど、例えば、ついてるサスペンションが、このクルマはTEINがついてますけど、それがオーリンズだったり、チームによって異なりますね」
「クルマで差を出すとすれば、ボディとサスペンション、あとはデフセッティングですかね」
DCCD
ドライバーズコントロールセンターデフ(DCCD)はGRBに元々付いている機能だが、この機能のECUセッティングが重要との事。
「4駆の場合、クルマがしっかり曲がるとか、トラクションが出るとかって、走る上で要になってくるんで、ここのセットアップがけっこう重要になってきますね」
このDCCDだが、設定によってはFRのような走行も可能らしく、自由度が高いがゆえにセッティングの難しさがあるのかもしれない。
ファストリバウンドシステム
この車両に装着されている車高調のTEINには、ラリー特有の様々な環境を走るための面白い特徴がある。
「TEINの3ウェイ。ファストリバウンドシステムって言って、クルマってそもそも、地面を走るのが普通じゃないですか?ところがラリーカーってジャンプする事が多いので、ジャンプする時にダンパーの伸びが遅いと、着地する時にバンプストロークが確保できなくなる可能性があるから、タイヤが地面から離れた瞬間に減衰力が0になって、ダンパーを伸ばすことで着地した時にストロークを稼げるイメージです」
ギャップではねても、伸びストロークが確保されているので入力が柔らかい。非常に操作性が高いとの事。これは、一般道を走るストリートユーザーも気になる構造である。
室内
室内を見ると、助手席にはコ・ドライバーが見るコンピューターがある「ラリーカーの場合、タイムと距離の管理が非常に重要なので。測りながら走らないといけないんです」
ちなみに助手席に乗るコ・ドライバーはノートを開きながら、ドライバーに指示をするのだが、助手席も当然、振動やGを感じるわけで、ドライバーがクローズアップされがちだが、コ・ドライバーも大変な苦労があるかと思う。
カスタムケージ
室内に組まれた、ロールケージはカスタムケージといって、剛性と乗務員の安全を確保するように造られている。
「カスタムケージというロールケージで、これもFIAの公認取ってるんですけど、バルクヘッドを貫通して、ストラットまで接続しています。見えにくいですけど、サイドバーが突き抜けて、ストラットまで伸びてるんです。ラリーカーはだいたい、こういう構造してますね。パイプフレームに近いというか。モノコックなんだけど、一部パイプフレームみたいな」
「目的とはしては、一番力がかかるサスペンション部分に対して、ボディ剛性を確保するのと、乗務員の安全を確保する事ですね」
ラリーのセットアップ
今年は、R車両でのレースがあるので活躍してないらしいが、セットアップもバッチリ出ているという本車両。ラリーの場合、どういった特性になっているのだろうか?
「エンジン特性としては、リストリクターが入ってるんで、高回転は回らないんですよ。せいぜい回しても6000回転くらいで。イメージ的には5000〜5500回転くらいでシフトアップしてますね。トルクで走る感じ。回さないほうが、空気が入ってくるんでブーストもかかるんですね。上に行けば行くほどパワーが落ちちゃうんで、一番トルクが出るところで走ります」
アンチラグシステム
高回転を使わず、トルクで走るとのことだが、加えてアンチラグシステム(ミスファイアリングシステム)は欠かせないとの事。
「これはフルコンじゃなくて、STIのグループN仕様のECUが入ってます。アンチラグシステムっていうのが入ってて、GRB世代から電スロで、通常のモードとSSモードがある。SSモードは、アクセルOFFで、排気管の中で細かい爆発を繰り返すんです。それによって、ターボってターボラグが発生するじゃないですか?要するに、0があって+があって−があるわけで。アクセル戻した時にマイナスに行くわけじゃないですか。負圧に。で、負圧になった所から、0まで戻って、プラスに行くよりは0より下に行かせない方が、ブーストってかかりやすいわけで。だからラリーカーはコースとコースの移動時は、通常モードで、スペシャルステージを走る時は、SSモードにして走ります」
エンジンをかけて、通常モードとSSモードを試してしてもらったが、SSモードになると、まるでチューニングされたロータリー車のように“バババババッ”と小刻みなサウンドに変化する。
ラリー車は後付けメーターがない??
勘が鋭い方は、写真を見てすでに気が付かれたかと思うが、これだけの競技車両にもかかわらず、コックピットにはメーターがない。これには驚いたが、水温、油温、油圧、ブースト計くらいは必要ではないのだろうか?
「理由があるんですよ。メーターがあったら見るじゃないですか。ドライバーって本来、前を向いていないといけない、運転に集中しないといけない。だから視界に入る余計な物を取り除くって考えです。時計すらついてないでしょ?セットアップは全部できてるって前提で走ってもらうので。まぁ、エンジニアの考え次第だとは思いますが、自信がなかったらつけるかもしれないですけど(笑)」
気になる箇所
その他、ラリー特有のカスタマイズやアイテムをまとめてみた。
■ミッション
ミッションは5速のドグミッション。レギュレーションがあるのでギア比は決まってるそうだ。ラリーは左足でブレーキ踏む事が多いので、左足ブレーキの場合もクラッチを踏まなくても入るので必要になってくる。
■マスターバックレス
エンジンの吸気負圧を必要とするマスターバックは、アンチラグシステムを採用する為、ブレーキペダルを踏んだ際の感覚が変わらないように取り除く。また、左足ブレーキを多用するので、マスターバックを外して直に踏んだほうが、正確なブレーキングができるそうだ。
■軽量化
軽量化にも規制がある。例えば、ドアの内張りを交換する際も、厚さ何ミリといった決まりがある。油圧サイドなどの、パーツ交換も公認パーツでないといけない。
■差し込み式ジャッキ
車両のサイドシルに穴が空いており、専用のジャッキで車体を持ち上げられる。ラリーのサービスは、短い時には20分と限られている為、どんな環境でも、すばやく且つ安全に車体を持ち上げる必要がある。フェイスクラフトで製作されている。
■ウインドウの穴
ラリーはスペシャルステージで、窓を閉めないといけない為に設けられている。
「SS(スペシャルステージ)中って、窓を閉めないといけないんですよ。暑いじゃないですか?天井のルーフベンチレーターから外気を入れたら、それを抜かないといけないので開いているんです。ルーフベンチレーターも公認パーツなんですけど、ちゃんと中で開閉するようになってます」
ドライバーとマシン
普段、あまり見ることのできない国内ラリーの競技車両に触れてみて感じたことは、石崎さんの言葉通り、ドライバーはどんな状況下(雨、雪、夜、細道など)でも、誰よりも速く、時に正確に走ることを要求される。
それに応じてマシン製作が行われており、レギュレーションの中でセッティングを出さないといけない。そして、コ・ドライバーを含むドライバーと、マシン(チーム)が一体にならないと勝てない競技だ。
「MATEX-AQTECラリーチームの監督から依頼いただけるのは、お前運転できるやつだから、じゃあセッティングもできるだろうって、そういうところでお話いただけてます。この業界、セッティングって手先器用ってだけじゃ駄目で、そういう感覚持ってないと」
石崎さんはドライバーでありながら、勝てるマシンまで造ってしまう。それを聞きつけ遠方から、勉強する為に若いメカニックが訪れると言う。
ただ、フェイスクラフトにおいては、一般業務も積極的にやっている。何故ならラリーは敷居が高い、閉鎖的と思われないように。
お忙しい中、我々の取材に応じてくれたのも、ラリー業界がもっと表に出てほしい、クルマも見てほしいと語っていた。
Faith Craft(フェイスクラフト)
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